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剣士さんとドラクエ[
7話 向上心
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 目をつぶって静かにしていなければ気づかないほど微かに、二階から軋む音が降りてくる。そして昼とは打って変わって穏やかな声が聞こえてきた。

「……それが貴男の答えですか」
「あぁそうだ、ご客人。私はまた占い師になろう」

 仲間も皆、寝静まったのだろう。音を立てないように静かにゆっくりと二階から降りてきた「彼女」はやや不自然な、低い声で私に言った。暗闇に融ける黒い目がじっと私と水晶球を眺めている。

 勿論、私はすでに目が覚めている。ユリマの思いをこれ以上踏みにじる訳にはいかない。以前にような私に戻ろうと決意していた。それを感じ取ったのか、「彼女」は優しい微笑みすら浮かべていた。

「そうですか、それは良かった」
「して、ご客人、名前は何と?」

 ある程度は予想がつく。水晶玉の前に座った時からざわざわと染み通ってきたのはトロデーンの惨状、そして二人の生き残りの事だった。あの青年と「彼女」の纏う空気はトロデーンの者という証。無論、私には感じられるが他の者にはわからないような風土の空気。その地で育ったものに香る「匂い」だ。

 彼女はその上に高貴な者独特の所作があり、同時に戦場に生きる者が発す魔物の血の「匂い」もしていた。そのような特殊な人物は一人しかいまい。

「ボクは、トウカです……トウカ・モノトリア。貴男には分かるでしょう?」
「勿論だとも。高貴なる血を引かれた貴女がどうしてそのような格好をしているのかは分からんのだが、事情があるのだとは思っていた」
「ボクは、人よりも非力だったら命が狙われる。非力でなくてもそう見られてはならない。……分かって下さりますか?……ボクは弱くはありませんが、それでも命を狙われてきましたから」

 「彼女」は深い茶色の髪の毛の上から右目を、左手で魔力を帯びた布に覆われた首を押さえて見せた。

「ただでさえボクは出来損ないですから……」
「……そんなことを言ってはご両親が悲しむ」

 「彼女」の噂はよく聞いている。見事な腕を持つ剣士だと。命を狙われている、とは言っているが、何人の人間が彼女と戦って勝てるのだろうか。世界的に有名な最強の剣士こそ「彼女」だった。何故か、名前や容姿は知れてはいないが、誰よりも高潔で強い剣士の噂は広まっているのだから。

 しかし、「彼女」は気付いているのだろうか。自分に流れる古く貴き血が、自分の養い親よりもずっと濃いものであり、自分こそが正しき「モノトリア」である事を。不思議に思わないのだろうか。その身に宿る力の強さを。何故魔法が使えないのかを。このことは、今の私の口から言って良いものではない。

 「彼女」がいつか、自分から知らなくてはならないのだ。古代の血を引くモノトリアに、課せられた本当の使命を、「彼女」は知らないのだろう
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