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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十六話 クロプシュトック侯事件(その4)
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確かにその通りだ。ただでは済まないだろう。
「選択肢は一つしかないと思うが?」
こちらを探るような眼でリヒテンラーデ侯が俺を見る。誘っているのか?

「ミュッケンベルガー元帥はどうお考えかな」
「さて、小官には元帥閣下のお考えなど判りかねます」
「フフフ、慎重じゃの。それとも私を警戒しているのかの」
「……仕事がありますので、これで失礼します」
「うむ、ご苦労じゃな」
一瞬、苛立たしげな眼をしたな。焦っているのか。

リヒテンラーデ侯の狙いはミュッケンベルガー元帥と組んでエルウィン・ヨーゼフの擁立か。今のままならそうなるが、不確定要素はラインハルトがどうなるかだ。後二つ勝てば元帥になるが、勝てるだろうか。能力は問題無い、後は同盟の出方次第、それと運だな。


■ 帝国暦486年5月26日  兵站統括部第三局  ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ

中将が戻ってきた。私にバラの花を一本渡す。何のつもり?
「皇帝陛下のバラ園から頂いてきました。もちろん陛下のお許しは得ています。いつも頑張ってくれてますからね。お礼です」
皇帝陛下のバラ! なんて事すんのよ、この阿呆。周りの視線が一気に私に集中する。

帝国では前線に女性兵は出さない。その分だけ後方の女性兵の比率は高い。当然兵站統括部も同様だ。いや、軍務省や統帥本部と比べても多いらしい。女性兵達にとって軍隊は出会いの場所でもある。その点で兵站統括部の女性兵たちは恵まれていない。此処は決してエリートが集まる部署ではないのだ。軍務省や統帥本部の女性兵たちに比べ明らかに不利な状態にあり、そのため彼女たちは不満を持っていた。

そんなときにヴァレンシュタイン中将が現れた。士官学校を優秀な成績で卒業、帝国文官試験合格、おまけに歳は十六歳、少尉として任官したときから彼は兵站統括部のアイドルだった。軍務省や統帥本部の女性兵たちが泣いて悔しがったと言うから凄い。中将が兵站統括部を離れたときは悲嘆に暮れたらしいが、今度は出世して戻ってきた。彼女たちが色めき立ったのは言うまでも無い。

そんな彼女たちにとって私は間違いなくお邪魔虫。亡命者、副官、戦場にも付いて行くのだ、とても許せる存在ではないだろう。おまけに階級は少佐。帝国ではほとんどの女性兵が下士官でごく僅かしか士官がいない。この兵站統括部でも私以上の階級を持つ女性兵はごく僅かだ。

「有難うございます。閣下」
周りの視線を一身に浴びながら答える。視線ってこんなに痛いものなの?
「陛下からバラをいただいたのは、これが最初だそうですよ。大事にしてください」
「はい」

わざとだ、きっとそうに違いない。昨日の事をとっちめられないように先手を打ってきたのだ。強まる視線の中、私は必死に微笑みを浮かべ嬉しそうにした。私にも意地があ
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