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俺の四畳半が最近安らげない件
あの軍師 〜小さいおじさんシリーズ4
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?いや『彼女』だ。いつ出るかと思ってたけど彼女だ。
「出たなバハムート!!!」
端正が叫んだ。最近ストレートに失礼だなこいつ。女性には紳士なんじゃなかったのかよ。
「なんと、呂布の槍を止めたぞ!相変わらず惚れ惚れするような豪傑っぷりだのう」
目をキラキラさせながら豪勢が呟いた。お前はお前で一国の丞相夫人をなんだと思っているのだ。
「ふふふ…人の妻に惚れ惚れなどと。悪い癖は治っていませんね」
「ぶっ殺すぞ」

……本当に失礼を隠さなくなったなこいつら。

異形の人馬は刹那槍を引いて間合いを開け、槍を腰だめに構え直した。
「呂布が…構えを変えた!」
豪勢の言葉が終わるや否や、呂布は激しい拍車と共に高速の突きを繰り出した。それらを全て剣で受け流し、もう地獄の獣みたいになっている赤兎馬を『彼女』は止めた。槍の先にぶら下がっていた陳宮は、さっきの突きで落ちていた。
「おあぁああぁぁあああああ!!!」
大家の自宅まで轟くような咆哮。その大音声は衝撃波となり、周りの全てをなぎ倒した。…うわぁ、呂布すげぇ。手に負えなさのレベルが段違いだ。その衝撃に気圧されるように、彼女が一歩後じさった刹那、人馬は殺到した。
「死ぃねえぇええぇえええ!!!!」
とうとう朱の槍が彼女を捉えた!…いや、槍を脇に挟んだのか!!
「……!!」
呂布が眦が裂けんばかりに目を見開いた。槍を脇に捉えた彼女は、槍に手を添えて大きく退き、呂布は朱槍に振り回されるままに、どうと横ざまに落馬した。
「夫人、呂布を落としたぞ!?」
「まじか、こんなの初めて見た!!」
奴らが感嘆のため息をついた瞬間、主を失った赤兎馬が豪放な蹄音と共に奴らに殺到した。うひぃとかおわぁとか言いながら逃げ散らかす端正と豪勢。ついでに赤兎馬に体当たり食らって吹っ飛ばされる陳宮。慣れているのか、受け身が超うまい。そして滅多くそに散らばって踏み散らかされる、わが社の重要書類。何だよこの蹄の跡。何に踏まれたって説明すればいいんだよ。…鹿?いやあれは偶蹄目だ。羊もヤギも…駄目だ。偶蹄目だ。


「…彼にとって幸いだったのです。『三国』が始まる前に、呂布と共に散ったことは」
――これは…誰に話しているのか?
「その身に余る期待をされ、重大な責任を負い、道を誤った者は…永い、永い辱めに」
羽扇が奴の横顔を隠した。
「永久に近い辱めに、遭い続けるのです。愚者の代名詞として、寓話として」
それは誰に向けた述懐なのか。何故か、ふいに、泣きながら愛弟子に剣を振り下ろす彼の姿が脳裏をよぎった。…永久の辱めとは、もしや…。白頭巾は羽扇をかざしながら続ける。
「治世の能臣…彼もそうでした。たった一度の失敗が許される、治世であれば」
何を思い出しているのか、羽扇に隠れた顔は見えない。だが、しかし。



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