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藤崎京之介怪異譚
last case.「永遠の想い」
X 5.11.AM5:37
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で書かれていたわけですが、結局のところ旧ヘブライ語で母音はなく、はっきりした発音は解らないのですが。」
「だからと言って、たかが文字だ。それが力を持つとは思えないが?」
 メスターラー氏は、今度はあからさまに不信感を示した。
 だが、文字とは人の心を映す鏡。それが清ければ清いほど、邪なものを近付けないと俺は思う。そう…音楽も同じなのだ。
 神の御名はたった四文字だ。旧約聖書の時代、神の御名を安易に口にすることは許されなかった。その理由はモーセの十戒の中の一つ"あなたの神の名を悪戯に取り上げてはならない。その名を悪戯に取り上げる者を神は罰せずにはおかない。"と言う一文から来ている。だが、メシアたるイエスがそれを破棄し、新しい律法を齎したことが書かれているのがいわゆる新約聖書なのだ。
 確かに、無闇矢鱈に神の御名を口にすることは許されないだろうが、祈りの際に口にすることさえ憚るのであれば、どの神に祈っているのかさえ解らない。この世には神と名乗る輩が掃いて捨てるほどいるのだから…。
「ですがメスターラーさん。神聖だからこそ、この方はここに生きています。」
「もう死にそうだがな。」
「いいえ。この方は…死にません。」
 俺がそう言った時、メスターラー氏が呼んでいた救急がやってきた。それを見て俺は、目の前の修道士へと静かに言った。
「もう安心です。貴方から恐ろしい者は去りました。貴方は生きて、そうして先に進むのです。」
 そう言うや、彼は目を閉じた。そこから恐怖の表情は消え去り、ただ静かに寝息をたてていた。




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