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俺の四畳半が最近安らげない件
猫飼ってますよね
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ちょっと待ってろ、壁をさすっていればそのうち、もふっと」
男はやおら壁をさすり始めた。どこだー、もふもふ、どこだーとか呟き始めた。

……あかんやつや、これ完全にあかんやつや。

「あ、足跡発見」
男が小さく呟き、足元の目を落とした。
「……げ」
畳の上に、太さ20センチくらいの粘液の軌跡がぬらぬらと続いている。
「ちょっとやめて下さいよ!こんなん…敷金返りませんよ!?」
「しっ…あいつの足跡だ。近いぞ」
男が声を落とし、そっと身をかがめる。
「お前はこれ以上入ってくるな。…あいつは縄張り意識が強い」
「入ると…どうなるんですか…?」
「粘液まみれの触手を駆使して体中にからみつく。昨日呑みに来た友人が、被害に遭った」
なに?なに飼ってんのこいつ!?
「絡みつかれると、どうなるんですか!?」
「ああ、命に別状はないが…沼の臭いが取れないぞ」
「あんたはどうしてるんですか!?」
「あいつにとって俺は『ボス』らしい。ボスには触手は使わない」
やがて彼はそろりとキッチンスペースに滑り込むと、一抱え程あろうかという貝殻みたいなものを引っ張り出した。
「…やれやれ、眠っているらしい」
「ちょ…ほんと何なのそれ!?さっき毛皮がどうとか保護色とか云ってなかった!?」
「粘液でこしらえた殻に入り込んで眠るんだ。…いかん、殻があったかくなってきた!!おいお前」
「ふぁっ!?」
「起きるぞ、逃げろ!こいつの視界に入るな!!」
「は、はい!?」


俺は咄嗟に部屋から転び出て走り出した。


「…で、この部屋には未知の生き物がいる、と」
親父が、呆れたような口調で呟いた。
どうも俺の手に負える件じゃなさそうなので、一旦自宅に逃げ帰り親父に訴えた。親父は無言で立ち上がり、そのまま問題の部屋に取って返すことになった。
「な、なんか粘液とか貝殻とかつけた奴が」
一応もう一度訴える。親父は無言でずいとドアに寄り、そっと耳を近づけた。そして俺にちらりと目配せして、近くに来るように促す。
「なんだよ、嫌だよ」
「いいから来い。そして聞け」
嫌々ドアに耳を寄せると、さっきとは打って変わった猫撫で声が漏れ聞こえてきた。
「うっふっふっふ、ほーらミケさん、にゃーしてごらん、にゃー」
「にゃーん」
「うっふふふ、にゃーですか、ほーらごろごろごろー、もふもふー」


―――え?


「で、でもさっき粘液が!!」
「よく覚えておけ」
大きく息を吐きながら、親父がぼそりと呟いた。
「ろくに勉強しないくせに、こんなアホみたいなイタズラには知恵も手間隙も惜しまない不可解な生き物、それが『男子学生』だ。いいか、あいつらはナリはでかいが、中身は子供と大して変わらん。いちいち真に受けていたら大家業は勤まらないんだよ」
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