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隠棲
第五章
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「ここはな」
「あの方の首を持って長安に行き」
「弁明される」
「そうされますか」
「それしかない」
 王の位と領地、つまり今の彼自身を守る為にはというのだ。そしてだった。
 韓信は鍾離?自身にもだ、苦い顔だが言った。
「申し訳ありませぬが」
「それがしに死ねと」
「それは」
「いいでしょう」
 ことがわかっていたのかだ、鍾離?は韓信に達観している顔で言った。
「剣をお貸し下さい」
「ではその剣で」
「これより首を刎ねます」
 自分自身のそれをrというのだ。
「そしてその首を持って長安に行かれるといいでしょう」
「申し訳ありあませぬ」
「いいです、ただ」
「ただとは」
「それがしから申し上げます」
 ここで彼が韓信に言うことはというと。
「すぐに王の位と領地を返上されるべきです」
「それは何故でしょうか」
「皇帝は貴方を恐れているからです」
「だからというのですか」
「それがしの次は貴方です」 
 こう韓信に言うのだった。
「ですから」
「隠棲せよと」
「はい、そうされねば」
 韓信を強い目で見て言うのだった。
「貴方に必ず災いが降りかかりましょう」
「そんな筈がありませぬな」
「やがてわかります」
 こう言ってだ、鍾離?は韓信から剣を受け取るとその剣ですぐに自ら首を刎ねた。韓信はすぐにその彼の首を持って長安に入ったが。その長安でだった。
 捕られられて兵権を奪われ王の位も領地も奪われ候の位とこれまでとは比べものにならないまで狭い領地を与えられた、そして。
 長安において鬱屈とした日々を過ごす様になった、彼はここでも周りの者達に言った。
「これはどういうことだ」
「まさか皇帝はです」
「韓信様を恐れて」
「そのうえでこの様なことを」
「わしが何をした」
 鬱屈として言うのだった。
「一体」
「わかりませぬ」
「しかしです」
「この仕打ちはです」
「あまりにも」
「全くだ、わしはこの国を築いた一人だ」
 その自負をまた言うのだった。
「それで王から候に、そして領地も」
「大きく減らし」
「そしてですな」
「この様にです」
「扱われるとは」
「忘れぬ」
 韓信は恨みさえ抱いていた、今は。
 しかしだ、この時の韓信にもだった。
 張良の手紙が届いた、その手紙に書かれていることはまたしても同じだった。
「まただ」
「隠棲せよと」
「全てを返して」
「その様にですか」
「うむ、隠棲せよとだ」
 こう書いてあるというのだ。
「何故あの方はわしにいつもこう文で言われるか」
「わかりませぬな」
「韓信様は天下の功労者だというのに」
「それでどうして」
「こう言われるのか」
「わかりませぬな」
「全く以て」
 周りの者達も言う。

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