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隠棲
第二章

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「その剣ですぐにな」
「股をくぐれと言ったものを斬ることは出来た」
「簡単にですな」
「それは出来た」
 こう言うのだった。
「簡単にな、しかしな」
「志があったからこそ」
「あの時はですな」
「男を斬ることをしなかった」
「そうなのですな」
「そうだった、わしは志があったからな」
 まさにそれ故にというのだ。
「あの男を斬らなかった」
「そうでしたか」
「では大王が今あるのは」
「その方々がおられたからこそ」
「それで、ですな」
「そういうことじゃ、わしは皇帝となった劉邦様だけでなくな」
 彼に加えてというのだ。
「そうした者達と会ったからこそ」
「今がある」
「そうなのですな」
「そうじゃ、今わしは位人臣を極めた」
 まさにというのだ。
「これ以上いいことはない」
「ですな、では」
「この宴を楽しみましょう」
「これ以上はない美酒に馳走を」
「何時までも」
「わしに勝る者はない」
 こうまで言った韓信だった。
「戦で勝てる者はおらぬぞ」
「ですな、大王はまさに国士無双」
「素晴らしい功があります」
「相国となった蕭何様、軍師であった張良様と並んで」
「天下の功労者ですな」
「そうじゃ、しかし」
 蕭何と張良の名を聞いてだ、韓信は。
 考える顔になりだ、こう周りの者達に言った。
「張良殿だが」
「はい、あの方はです」
「大王と並ぶ功を挙げられましたが」
「英布様、彭越様と共に」
「ですが」
「位は候でな」
 王でも公でもなくだ。
「領地は少ない、そしてほぼ隠棲しておる」
「何故でしょうか」
「あれ程の功を誇る方が」
「王になれたでしょう」
「相国に近い立場にも」
「うむ、あの方ならばな」
 韓信も一目置く言葉だった、張良に対しては。
「必ずな」
「王にして欲しいと皇帝に申し上げれば」
「王になれ」
「相国は蕭何様がおられますが」
「それでもですね」
「それに近い地位になれた」
 役職もというのだ。
「位人臣を極められた」
「ご本人が望まれれば」
「まさにですね」
「そうなった」
「そうでしたね」
「そうだ、今でもだ」
 それこそと言う韓信だった。
「それがなるというのに」
「妙なことですな」
「張良様ならばそれこそ望むままですが」
「王にもなれ」
「相当な官位も得られるというのに」
「わからぬのう」
 首を傾げさせて言う韓信だった、彼は若い頃は想像も出来なかった宴の中で美酒と馳走を楽しみながら言っていた。
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