暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
番外編 〜喫茶店のマスター〜
後編
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 名前を教え合ったその後も、僕は足繁く北上さんのミア&リリーに通い、その度に少しずつ北上さんと会話することがちょっとした楽しみになっていた。おかげで少しずつだけど、北上さんのことを知ることが出来た。

 その日は、ぼくが来店した時北上さんはマンガを読んでいた。

「いらっしゃ……ああ、トモくんか」
「はい」
「んじゃーいつものとこ座っててー。私はここでマンガ読んでるから」

 北上さんの名を知ってしばらく経った頃から、北上さんは店にいる客が僕だけの時はあまり接客しなくなってきていた。特にマンガを読んでいる時なんかは、本当に愛想程度の挨拶しかしてくれない。

「北上さん」
「んー?」
「えーと……注文いいですか?」
「んー」
「えーと……コーヒーを……」
「……」
「……」
「……」
「……自分で淹れます」
「んー」

 さらに北上さんは、マンガに集中し始めるとあまり僕にかまってくれなくなる。その割には、他にお客さんがいる時はマンガに集中してても呼ばれたらちゃんと反応するくせに……。

「北上さん」
「んー」
「はい。カフェオレいれましたよ」
「んー」

 こんな感じで、僕が気を利かせて北上さんの分のカフェオレを淹れても全然気にしてない感じ。その割に僕がカフェオレをそばに置いたら、すぐに手を伸ばして飲み始めるんだよね。

 さらに……

「トモくん」
「はい?」
「私、おなかすいたなー」
「はい」
「でも、読んでるマンガが今ちょうど盛り上がってて目が離せないんだよねー」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「……クロックムッシュでいいですか?」
「んー」

 こんな感じで、時間帯によってはついに自分が食べる軽食まで僕に作らせるようになってきた。おかげで今なら、お店のメニュー一通り、レシピを見ないで作れる自信がある。

 今日作るのはクロックムッシュ。食パンでハムとチーズのサンドイッチを作り、それが分解しちゃわないようにパンの周囲をフォークでギュッと押さえてあげる。バターをひいたフライパンでそのサンドイッチをカリッと焼き上げれば完成だ。知らない内に手際良くなっている自分が、いいんだか悪いんだか……ついでに言うと、自然とサラダまで作るようになってる自分がイヤだ。

 ……でも。

「……」

 あれだけ真剣にマンガ読んでる北上さんの顔が見られるなら、別にいいかな。

「はい。出来ましたよ北上さん」
「んー。ありがと」

 あ、ありがとって言ってもらえた。

「ん……おいし。トモくん腕上げたねぇ」
「全部北上さんのフリーダムな振る舞いのせいですけどね」
「そっかそっか。んじゃその調子でこれからもよろしくー」
「マジですかっ?!」

 僕
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