暁 〜小説投稿サイト〜
優柔不断な短編集
ダイヤのA 妄想小説
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 





 湧き上がる歓声。
 それが一層大きくなる度に赤いランプが一つ点く。

 響くのはそれだけではない。
 乾いたミットの音、ボールの当たった金属バットの甲高い音。

 そして…男たちの雄叫び。


 ここは自らを磨いた球児たちが、己の全てをぶつける舞台。
 相手は因縁浅からぬ薬師、彼ら打者を迎え撃つのは…これまた彼らとの因縁のある、一年生サウスポー。

 独特なフォームに、自らの意思で変幻自在に変化させるムービング。
 自らの持つ武器をぶつけ―――以前は打ち崩された。

 しかし、今の彼はあの時とは違う。
 以前とは違う、アウトローという武器。内角へ投げられないイップスを乗り越え、更にはチェンジアップという新たな武器を身に付けた。


 ―――あぁ、ちくしょう…


 強力打線と言われる薬師のバッターたちを、次々と三振に打ち取っていく。
 今の彼はまさに、青道のエースと言っても過言ではない。それだけのピッチングを、あのマウンドでやってのけている。


 ―――チクショウ…!


 そして遂に、薬師の四番―――轟雷市を…


「―――ストライク、バッターアウトッ!」


 三振。
 同時に、球場を揺らすかのような歓声が起きる。

 メガホンを持ちながら応援していた俺たちも、その例外ではない。
 あいつが、あのアホでバカなあいつが…堂々たるピッチングをしている。


 ―――ちくしょう…!


 今でも凄いと思う。
 甲子園目前までいったあの試合で、デッドボールをやらかし。
 その所為で内角に投げられなくなって。

 それでもあいつは、あそこに立っている。


 ―――畜生…!


 素直に思う。凄いと、尊敬すると。
 バカでアホな野郎だが、絶対的エースがいる中でも諦めず、前へ進もうとする。

 それはバカ故か、はたまたアホ故か。


 ―――なんであいつばっか…!


 そうだ、諦めなかったから、あいつはあそこに立っているんだ。
 進み続けたから、あそこに立っているんだ。


 ―――負けるか…!


 俺だって、諦めてたまるか。
 これでも中学では…いや、そんなお飾り、もう意味もないか。

 片岡監督に面と向かって「エースになる」なんて言った、名も知れない奴があそこに立っているのだから。


 ―――負けてたまるか!


 俺だってピッチャーだ、あそこで投げることに対するプライドがある。
 ぜってぇ、あそこに立ってやる。あのマウンドに立って、あいつらと同じような、滾る戦いを。あそこでしか味わえない緊張感を…!


 ―――ぜってぇ負けねぇ!


 ぜってぇあそこに
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ