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俺の四畳半が最近安らげない件
ひかるもの
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買ってしまえば必ず、後悔する日が訪れる。ならば私にはオススメする理由がありません」
もう一度ニッコリと笑い、奴は再びドアを開けた。
「じゃ私はコレで!」「待てや!!」「アデュー♪」「ふっざけんな戻れ!!」「次のアポがありますんで」「分かった買う!買うから教えろ!!」



―――ゆかしんで下さい。




代金を払った俺に、奴はそう言った。勿論俺は再度奴をひっ捕まえ、ゆかしむって何だ初めて聞く動詞だぞこの野郎とまくし立てた。しかし奴は困ったような笑顔で言った。
「例えばお客様、私が『走る』という動作を知らない人間だったとしたら、走るという言葉をどう説明しますか?」
「ぐぬぬ」
「いやー私も口下手でしてね、どうにもこうにもたははは…では!思う存分、ゆかしんでみましょう!どうか幸せなゆかしみライフを!!」
とか適当なことを抜かして逃げた。



 以来、『商品』(としか呼びようがない)は毎日腹やら関節やら光らせながら、毎秒2cmの速さで俺の周りをじりじりと動いている。そして来客の度に前脚を振り上げて『ま―――!!』と威嚇する。
 試しに周りの友人に聞いてみたが、誰一人『ゆかしむ』などという動詞は知らなかった。
 名刺の電話番号に連絡もしたが、使われていない番号だった。要は俺は詐欺られたのだろうか。
 しかし取られた代金は精々電気スタンド一台分程度。太陽電池というのも本当らしく、故障や電池切れの気配すら見せない。細工も手抜きを感じさせない。何に使うのかさっぱり分からないが、これがある程度のコストをかけて丁寧に作られた逸品であることは間違いなかろう。詐欺目的にしては色々誠実というか、良心的過ぎるのだ。
 友人達の間では、営業マン宇宙人説やら未来人説やら飛び交っているが、実は…俺はもう一つの可能性に行き当たってしまい、途方に暮れている。確信にも近い。


並行宇宙説、である。


真顔で云うのもばかみたいなので絶対に他人には言わない。が、困ったことに物証がある。俺は今日も『商品』の背に貼り付けた10円玉を眺める。友人達は「なにこれ貯金的な?」と笑うが、気付く奴だけ気付いたらいい。


代金を支払った際、端数がなかったので釣りをもらった。奴はその釣りにその10円玉を呉れたのだが……


『昭和67年』と、記されているのだ。
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