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医者の不養生
3部分:第三章

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第三章

「だからしてはならないんですよ」
「ですね」
「まだ淋病でよかったですよ」
 医者は森田にこうも告げた。
「梅毒とかエイズだったら」
「こんなのじゃ済まなかったですね」
「そうです。まあその淋病ですけれど」
「お薬お願いします」
「出しますね。ただ」
「はい、今治ってもですね」
「もう絶対にかかったら駄目ですよ」
 要するにだ。注意しろというのだ。
「怖い病気ですから」
「骨身に滲みて知りました」
 それだけの痛みと衝撃だった。今回のことは。
 それでだ。森田は切実な顔と声で医者に答えた。
「もうこんなことは二度としません」
「コンドームは必須ですよ」
「はい」
 森田は背中を丸めてだ。医者に答えた。そうしてだ。
 それから彼は女遊びを止めた。そしてこう茶美に言うのだった。
「お見合いするよ」
「お見合いですか」
「もうね。遊ぶのは懲りたよ」
 実際にこりごりといった顔で言う。
「そう思ったよ。それにね」
「それに?」
「養生はすべきだね」
 こうも言うのだった。
「本当にそう思ったよ」
「あの、一体何があったんですか?」
「いや、何もなかったけれどね」
 淋病のことはだ。茶美には言わなかった。流石に性病科の医者としてそれは言えなかったしそのうえそれを言うことはあまりにも恥ずかしかった。誇りと恥故に言えなかった。
 それ故にだ。森田は言うのだった。
「それでもね。身は慎むべきだね」
「だから遊ぶこともですか」
「おかしな遊びはしないに限るね。そう思うよ」
「成程。では」
「うん。それでは?」
「是非結婚されて身を慎まれて下さい」
 茶美は微笑んで森田にこう告げた。
「それが一番ですから」
「そうだね。俺も真面目に生きるよ」
「はい。そしてそれはですね」
「それはっていうと?」
「一度そういうことに遭わないと。人はわからないものですよね」
「えっ・・・・・・」
 茶美のにこりと笑った言葉にだ。森田はぎくり、となった。だが茶美はにこりと笑ったままでだ。その彼の横に立っているのだった。静かに。


医者の不養生   完


                 2012・3・24

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