暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
後編
1.ひとそれぞれ
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 暁ちゃんが轟沈してから1週間ほど経過した。轟沈した直後はそれこそ鎮守府の雰囲気は最悪だったが、今では皆、気持ちがだいぶ落ち着いたみたいだ。

 ただ、ビス子は少し変わった。

「ハル! 今日もシャンプーしてもらいに来たわよ!」
「おーう。んじゃシャンプー台に行ってくれー」

 今日もビス子は、バーバーちょもらんまに来店した。その笑顔は以前と同じく明るいものではあったが、少し陰がさすようになった。そして頭には、以前からかぶっていた黒の帽子ではなく、暁ちゃんの白い帽子がかぶられていた。

 ビス子は暁ちゃんが沈む様を間近で見たと聞いた。帰還したときのビス子の様子は悲惨だった。

『アカツキ……あなた半人前よ……だから……だから帰ってきてアカツキ……!!』

 彼女は、暁ちゃん本人から受け継いだ帽子を大事そうに抱え、怪我をした幼女のように泣き喚いていた。何度も何度も暁ちゃんの名を呼びながら泣き続け、その日は誰も彼女に声をかけることが出来なかった。

 その後立ち直った彼女は、暁ちゃんの形見の帽子をかぶるようになった。

『アカツキは半人前のレディーだったけど、私がアカツキと共にいてあげれば、合わせて一人前のレディーになれるでしょ?』

 ビス子は、俺達に笑顔でそう言った。暁ちゃんを助けられなかった自分は、半人前のレディーだと彼女は考えたらしい。でもそれを、今は亡き暁ちゃんで補おう、そうして、暁ちゃんの分まで一人前のレディーとして生きよう……そう決意したそうだ。

 シャンプーとトリートメントを済ませたビス子の髪をドライヤーで乾かしてあげる。俺の気のせいなのかも知れないが、あの日以来、ビス子の髪質が少し変わった。元々サラサラでしなやかだった彼女の髪が、少し柔らかくなったというか……女性の髪というよりは……

「なービス子」
「ん? どうかした?」
「お前さ。自分でも髪をトリートメントしたりしてる?」
「特にしてないわよ? どうして?」
「いや、こうして乾かしてると少し髪質が変わったというか……柔らかくなった?」
「へえ〜。特に自分ではそう思ったことはないわよ?」

 そう。女性の髪というよりは、子供の髪質に近い感じになった気がする。誤解を恐れずに言えば、暁ちゃんの髪質に近いというか……

「そうなの?」
「うん。辛いことを思い出させてしまって申し訳ないけど……」
「いいえ。アカツキの髪質に近くなったのならうれしいことよ。Danke」

 髪を乾かす俺を鏡越しに見つめるビス子の顔は嬉しそうに微笑んでいたが、変わらず陰が差していた。悲しみを含んだ笑顔ではない。提督さんのような泣きだしてしまうような笑顔でもない。心からの笑顔であることに変わりはない。ただ、陰が差していた。

「はい終わり! ビス
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