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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十八話  三年の月日
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上に碌でもない回答が返ってきたよ。聞きたいかね?」
「聞かせてもらえるならね」
物好きだな、ホアン。後悔しても知らんぞ。一口コーヒーを飲んだ。口中が苦い、さっきまでは感じなかったが……。

「株を得た場合、これを売却出来るかどうかが問題になる。売却出来ればかなりの利益が同盟政府の懐に入るだろう。政府は財源を確保出来るわけだ」
「良い話だ。それで、売却出来るのかね?」
「それを聞くな、ホアン」
ホアンが表情を顰めた。溜息が出そうになったが何とか堪えた。

「難しいだろうと財政委員会は考えている。財源が確保されているならともかく売却益を財源にするから株を買ってくれと言われて同盟市民が素直に株を買うか判断がつかないようだ。企業を取り巻く環境が不安定で先行きが余りにも不透明過ぎる。その所為だと思うが市民の間では株を買うどころか手持ちの資産を現金化しようとする動きが出ているらしい。銀行からも預金が減少しつつあるという兆候も出ている」

「本当か、それは」
ホアンの声が尖った。かなり驚いている。
「事実だ。まだ目立ったものではないがそういう傾向が生まれつつある。そして少しずつだが金の価格が上昇している。意味は分かるな?」
問い掛けるとホアンが頷いた。

「ああ、同盟市民の一部は経済的な混乱が発生すると見ている、そして貨幣価値が暴落すると見ている。そういう事だな」
「そういう事だ。つまり財政委員会は遠回しにだが無理だと言っているよ。私も同感だな、売却は無理だろう」
「その場合、如何なる?」
溜息が出た。医者が病人に余命宣告をするような気分だ。或いは家族への説明か。

「企業の業績が好調なら株の所持は問題は無い。しかし先ず有り得んな。おそらくは業績悪化、経営不振で政府に支援を要請する事になるだろう。筆頭株主でもある以上嫌だとは言えん。財源不足の所に支援要請、悪夢だよ」
「……」
ホアン、そんな顔をするな。未だ話す事が有る、これは入り口だ。

「言い忘れたが政府が株を売るのはそういう事態を恐れ責任を逃れるためではないかと取られる可能性もある。その場合酷い混乱が生じかねないと財政委員会は警告している」
ホアンが呻き声を上げた。
「しかし断ればどうなる?」
「企業倒産と失業者の増加だろう。そのうち革命が起きるな。帝国に併合される前に同盟が消滅するかもしれん」
ホアンが溜息を吐いた。背もたれに体を預けじっと天井を見つめた。

「……もし、株が売れたら?」
「万に一つも有り得ん事だが財源が出来る。但し、何のための財源になるかが問題になる。争奪戦になるだろう」
「景気高揚か国債の償還か、そういう事だな?」
「そうだ」
「夢も希望も無いな」

先行きが見えない今、同盟市民の多くが資産を現金化、或いは貴金属化しようと
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