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鎮守府の床屋
前編
9.季節外れの恐怖
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「そういや昨日の夜さー。裏の林に火の玉が飛んでたんだよねー……」
「?!」
「バカなッ?!」
「クマッ?!」
「ねむ……」
「やせ……」
「……頭痛い……」

 秋祭りまであと数日というある日の朝、北上がいつものように気が抜けた調子で、そんな驚愕の報告をあげ、全員に緊張が走った。と同時に、俺達の朝飯を乗せたテーブルがガタガタと震えだした。

「地震ッ?!」
「ふぁあぁ……揺れて……クカー……」
「朝は眠いね……やっぱり夜戦が……」
「天変地異だクマッ?!」
「……デカい声出さないで……頭に響くから揺らさないでよー……」

 なんだこの対照的な反応は……反応したのは暁ちゃんと球磨だけで、加古と川内はノーリアクションか。加古と川内の二人が朝弱いのはまぁいつものことだけど……つーか加古は24時間フル稼働で眠そうだけどな。あと隼鷹は二日酔いなのだろうか……頭を抑えてテーブルに伏せていた。

 そういや、こんな時に一番大騒ぎしそうなビス子が騒いでないのが意外だ。日本人にとっては慣れてる地震であっても、外国人にとってはまさにハルマゲドンレベルの大パニック災害だと聞いたことがある。ならばドイツ人? ドイツ艦? のビス子はこの中で一番大騒ぎしそうなものだが……不思議に思って俺はビス子に目をやった。

「ひ……火の玉なんて、怖くないわよ?! なんせわた、わた、私は、一人前まえまえのれれれれでぃー!!」

 ビス子は完全に青ざめ、身体をガタガタ震わせながら笑顔で納豆をかき混ぜていた。あーなるほど。この地震の震源地は、北上の話に恐れおののいて身体を震わせているビス子だったのか……それなら納得だ。納豆の糸が周囲に飛び散り、その糸が朝日に照らされてキラキラと輝いていた。納豆の糸を美しいと思う日が来ようとは……俺の感性も、まだまだ成長し続けているということか……。

 その後北上に詳しく話を聞いた所、昨日夜遅く……といっても10時ぐらいだが……北上が夜間の哨戒に出ようと宿舎を出ようとした時、宿舎の裏の林で、宙をふわふわと漂う光を見たという……

「それホントクマ?」
「ホントだよー。姉のくせに妹を信じられないの?」
「信じてほしかったら普段から信頼を得られるように行動するクマっ」

 球磨の言うことは至極正論だが、人の腹をえぐるパンチをかましたり、平気で人を恐喝するような女にそのセリフを吐く資格はない……というセリフが喉まで出かかったが、おれはそれを提督さんお手製の絶品味噌汁で流し込んだ。

「……提督さんの味噌汁って美味しいなー」
「ホントだねー……」

 お前が事の発端なのに、何他人ごとみたいに味噌汁堪能してるんだ北上。

「しかしそれが本当だとしたら、聞き捨てならん話だ」

 制服の上から割烹着を着て、
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