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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十七話 飴と鞭
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イナー・フォン・ゲルラッハ
「株、ですか」
「それと国債じゃ。そうだの、ゲルラッハ子爵」
「はい」
私が肯定するとヴァレンシュタイン元帥がフーッと息を吐いた。帰還早々また厄介な問題が持ち込まれた、そう思っているのかもしれない。
「先ずは株なのだが帝国の株については放出する。同盟、フェザーンのものについては当分は所持した方が良いと我らは考えているのだが卿は如何思うか?」
元帥が小首を傾げた。
「……当分所持した方が良いと仰られるのは同盟、フェザーンの混乱を抑える為ですか? 経済面で両者の首に紐を付けたいと」
“ま、そんなところだ”とリヒテンラーデ侯が答えた。どうも元帥の反応は良くない。
「ヴァレンシュタイン元帥は反対でしょうか?」
「そうですね。フェザーンはともかく同盟の株は帝国が所持するのは問題が多いと思います。いずれ厄介な事になるでしょう」
リヒテンラーデ侯が“フム”と鼻を鳴らしたが元帥は全く気にする事無く紅茶を一口飲んだ。落ち着いたものだ。
「戦争が終結しました。その所為で同盟だけでは無く帝国も経済面で大きな変動が発生します」
ヴァレンシュタイン元帥がリヒテンラーデ侯と私に視線を向けた。何処まで理解しているかを確認している。
「……なるほど、戦争が終結したか。兵器が売れなくなるの」
元帥が頷いた。確かに兵器は売れなくなるだろう。つまり今後軍事費は或る程度削減出来るという事だ。
「そうです、これまでは戦争を前提にした生産活動をしていましたが今後はそうは行きません。兵器以外の物を売らなければならない。軍を相手にした商売は難しくなる。上手く切り替えが出来れば良いですがそうでなければ……」
元帥が言葉を途切らせた。表情は厳しい。軍から民への切り替えか。確かに厳しいかもしれない。
「経営が傾く、そうですな?」
「そうです。特に同盟は軍を縮小しますから帝国より厳しい状況に陥ると思います。軍需産業に限りません。どんな企業もその影響を受けます、場合によっては倒産という事も有るでしょう。そうなった時、帝国が株を持っていると色々と問題が発生しそうです」
「なるほど、帝国が故意に潰したと言い出すか」
「それは……」
私が侯に抗議しようとすると元帥が首を横に振った。
「有りそうな事だと思いますよ、ゲルラッハ子爵。同盟政府はともかく同盟市民にとっては真実よりも帝国の責任に出来る事を望むでしょう」
「……」
「帝国にとっては只で手に入れた株券が紙屑になるだけです。実質的な損失は無いに等しい。痛みを負うのは従業員とその家族。そしてその企業と取引をしていた企業です。連鎖倒産という事も有るでしょう。経済危機という事にもなりかねません。経営の悪化を株主でありながら故意に見過ごした。同盟の力を弱め併合し易く
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