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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
25.荒くれ者の憂鬱
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 ヘファイストス・ファミリア製の最高級武具は、その質の良さと高名さゆえに非常に高価格で取引される。それこそ剣一本でもオラリオの外ではしばらく遊んで暮らせるだけの額だ。故に、そんな剣をおおっぴらに見せびらかしているのは泥棒にとって「盗んでください」と言っているようなものであり――取り上げる手は数あれど、泥棒の格好の的だった。

(……どこのどいつだか知らねぇが、そんな細身のクセに高級品ぶら下げてんのが悪いんだよ)

 男がターゲットにしたのは、金髪の冒険者。後ろ姿しか見えないが、十代後半といった風体で体は細身だ。その背にはヘファイストス製だと一目でわかる品質の高い剣が三本。おそらくは自分の物ではなく、知り合いか先輩に整備でも任されたのだろう。
 後ろから素早く引き抜いて人ごみに紛れれば、誰が盗んだのかは意外と気づかれない。こういう場合、盗まれた方が間抜けだというのがこの街の見解だ。

(へへっ……精々その剣の本当の持ち主に怒られるんだな!)

 気配を消し、歩調を合わせて背後に回り込み――その盗人は剣へと手を伸ばした。
 直後、伸ばした手が掴みとられ、想像を絶する握力に『骨ごと握り潰された』。
 錯覚――掴まれた手首から先が爆発したような激痛と共に、ぞっとするほど冷たい言葉が紡がれた。

「………薄汚い手で俺の持ち物に触るな。不愉快だ」
「あ………う、ぎゃあああああああああああああああッ!!?」

 オラリオに一人の男性の醜い断末魔が響き渡った。
 遅れて、理解する。金髪の冒険者が剣を盗もうとした男の腕を振り返りもせずに掴みとり、握力だけでへし折ったという事を。そして男が悲鳴を上げても尚振り返ることはなく、金髪の男は何事もなかったかのように歩いて去っていった。

「ああ、あっ、あぁああああ………!!」
「お、おい!大丈夫か!?」

 男は往来の真ん中で自分の腕を押さえ、夥しい脂汗をかきながら叫んでいる。その腕は手首から先が本来曲がらない筈の方向へと折れ曲がり、肌は薄紫色にうっ血している。周辺の冒険者は突然の事態に戦々恐々しながら男の周囲に集まる。

「しっかりしろ、何があったんだよ!?」
「事件か!?ギルドに報告か!?」
「ああ、気にすんな。ソイツ『狂闘士(ベルゼルガ)』に絡んで腕を折られただけだよ」
「なんだ『狂闘士』か。なら問題ないな」
「モグリかよこいつ。心配して損したわー」
「ぐあああ……あ、ええ?ちょ、待っ………!」

 男の周囲に集まった人々は興味を失ったように普段の生活に戻っていく。てっきり誰か助けてくれるものだと思っていた男は驚愕と困惑の入り混じった表情で周囲をキョロキョロするが、皆の反応は割と冷ややかだった。

「な、何でそんなに冷静なんだよ!アイツいきなり俺の腕を折った
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