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ナザレの女
第一章

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                 ナザレの女
 ルイージ=カンティーコはポルトガルのナザレで生まれ育っている、仕事が小学校の先生であり年齢は二十九になる。
 三十近くということもありだ、校長に言われた。
「カンティーコ先生もそろそろ」
「結婚ですか」
「確か交際相手の方がおられますね」
「はい」
 同じ学校で勤務しているアメリア=ローレンガーである。黒髪を長く伸ばして切れ長の黒い瞳に浅黒い肌を持っている。口元の黒子があだっぽくスタイルのいい美人である、ルイージはその彼と似合うサッカー選手の様なスタイルをした長身である。黒髪は縮れていて顔立ちはラテン系の彫があり明るい表情である。目の色は黒く何処かオペラ歌手のプラシド=ドミンゴの若い頃に似ている。
「その人は」
「ローレンガー先生ですね」
「ご存知でしたか」
「気付いていました」
 微笑んでだ、校長はルイージに答えた。
「いつも一緒におられるので」
「だからですか」
「そうでした、では」
「それではですか」
「ローレンガー先生とは」
「実はです」
 ルイージは校長が真実を知っていると聞いてだ、こう答えた。
「二人で話をしていますが」
「そろそろですね」
「そう考えています」
「わかりました」
 校長はルイージに笑みを浮かべて応えた。
「それでは」
「はい、結婚はですね」
「結婚は神が喜ばれることです」
「結婚をしてですね」
「よき家庭を築くことは」
 まさにそのこと自体がというのだ。
「神が喜ばれることです」
「それでは」
「はい、是非です」
 校長はルイージに笑顔のまま言った。
「結婚されて下さい」
「そうします」
「それでは」
 二人で話してだ、そのうえで。
 ルイージはそのアメリアにもだ、こう話した。丁度仕事帰りで二人共学校の教師が着る生真面目なスーツである。
「今日校長先生に言われたけれど」
「まさか」
「結婚のことをね」
「校長先生気付いてたのね」
「流石は校長先生だね」
 その役職と彼の能力の両方を知っての言葉だ。
「本当にね」
「よく見ておられる人ね」
「それでだよ」
「私達がそろそろ」
「結婚するかどうかをね」
「聞いてこられたのね」
「うん、実際僕もね」
 ルイージは暗い夜道をだ、アメリアと共に歩きつつ彼女に話した。夜道であるが灯りで明るくしかも治安のいい道を進んでいる。
「もう二十九だし」
「私もね」
 二人は同じ歳である、この学校で一緒の勤務になって知り合ってそのうえで交際をはじめて今に至るのだ。
「だからね」
「もうそろそろ」
「三十になるし」
「結婚しようか」
「そうね」
 アメリアはルイージの言葉に頷いた。
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