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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二十四話 ヴァンフリート星域の会戦
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帝国暦485年 3月21日 ヴァンフリート星域の会戦が始まった。
「ファイエル」
グリンメルスハウゼン提督の命令と共に艦隊は攻撃を開始した。同盟軍は凸型の陣形を取り、帝国軍は凹形の陣形を取っている。グリンメルスハウゼン艦隊はこの凹形の左翼にあり、本当なら他の部隊と協力して同盟軍を包囲攻撃するはずなのだがグリンメルスハウゼン艦隊は右翼の一部を除きほとんど戦いに参加していなかった。敵を攻撃するには全軍をさらに敵に近づけなければならないのだが、グリンメルスハウゼンは何も言わなかったし、総司令部からも何の指示も無かった。俺も余計な事はしない。
ミュッケンベルガー元帥の作戦構想は明確でグリンメルスハウゼン艦隊は戦力外として扱う、という事だった。俺もそれは正しいと思う。当てになるかならないかはっきりしないものは戦力としてカウントするべきではない。何かの間違いでプラスになれば良しとすべきだ。帝国軍の意図をどう見たかはわからないが同盟軍はグリンメルスハウゼン艦隊をほとんど無視する形で戦線を構築し始めた。これで敵からも味方からもグリンメルスハウゼン艦隊は無視された事になる。さぞかしラインハルトが怒り狂っているだろう。
敵の戦力は第五艦隊ビュコック中将、第十二艦隊ボロディン中将、ここまでは俺もわかる。あとの一人は第六艦隊ムーア中将だった。アスターテで敵前での反転命令だしてラインハルトに無能といわれた提督だ。出来れば今回も無能振りをアピールして欲しいもんだ。敵は左翼にビュコック、中央にボロディン、右翼にムーアだ。俺の作戦が上手くいけばムーア艦隊がダメージを受ける事になる。
「ナイトハルト、そろそろ良いかな」
俺がミュラーに確認したのは、開戦後二時間を経過した頃だった。戦線は膠着状態になっている。
「そうだね。そろそろ良いだろう」
「提督に進言しよう」
俺達はグリンメルスハウゼンの前に立った。
「閣下、戦線は膠着状態にあります。艦隊を高速で動かし敵の右翼を叩き後背に出ましょう」
「ん、しかし参謀長、総司令部からの命令も無しに動いてよいのかのう」
俺はこの老人が嫌いではない。困った人だとは思うが憎めないのだ。それにラインハルトのように無能だと軽蔑する事は危険だと思っている。軍事的才能は無いが人間に対する洞察力はかなりのものだ。それでもこんな時は、この人の軍事的才能の欠如には失望せざるを得ない。
「閣下、このままでは無意味に損害が増えるだけです」
「ミュラー副参謀長の言うとおりです。このままでは我が艦隊は何もしなかったと言われるでしょう。せっかく左翼を任せてくれた司令長官の期待にも答えることが出来ません」
「参謀長の言うとおりです。閣下、ご決断を」
俺とミュラーは口々に決断を迫った。
「……参謀長の良いように」
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