暁 〜小説投稿サイト〜
TOL〜幸運と祝福の物語〜
プロローグA
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「かあさん!」

ガバッと布団を跳ね除けて起き上がる。
差し出した右手は空を切り、何とも言えない虚無感だけが残る。
全身から冷や汗が溢れ、今すぐにでも水浴びしたい気分だ。

「…っ。」

差し出した右手を、そのまま頭まで持っていき、こめかみを掴む。
ここ数年の間だけで何百回見ただろうか。

俺が見た夢は本当にあったことなのか分からない。
俺が赤ん坊の頃の記憶なのだろうか。
何百回と見て分かることは、あの女性が俺の母親かもしれないということと、鎧を纏った…いや正確には赤い鎧を纏った集団が水の民を殺したという事実のみだ。

俺が常に身に付けているペンダントに、直径5p程の石と、一人の女性が赤ん坊を抱えている写真が裏に隠されている。その写真の女性と夢に出てくる女性が似ているというだけで、母親である証拠にはならない。もしかしたら歳の離れた姉さんかもしれないし、近所の女性だってことも可能性として存在している。
しかし、初めて夢で女性を見た時、俺は迷うことなく思ってしまったんだ。この女性が俺の母親なんだと。

そして母親が水の民である証拠は、白い光の物体。あれは水の民しか使えない<テルクェス>と呼ばれる爪術の一つだ。恐らくだが、母さんは陸の民のやつらに殺されたんだろう。水の民を恐れている陸の民に。
まあ、あいつらの気持ちも分からんでもない。俺たち水の民からしたら陸の民も同じことが言えるのだから。今生きている水の民の多くは、陸の民に生活を奪われた敗北者だ。だから恐れというより憎しみを強く持っている者の方が多い。
ただ、関係のない陸の民まで憎んでいるのは不思議に思う。実際のところ、近くの町まで買い物に行くと分かるが、水の民に執着しているのは国のお偉いさん達ぐらいだろう。普通に暮らしている者の多くが、水の民=煌髪人といったお伽噺感覚でしか見ていないことが分かる。
まあ、今の水の民は過去に囚われ過ぎじゃないかってことだ。俺からしたら害さえ無ければ、そこまで陸の民全体を敵視する必要はないだろうと思っている。
まあ、害を及ぼす陸の民…少なくとも母親を殺したあいつらだけは許す気はないが。

「…起きるか。」

胸に残る虚無感が薄れた後は、体に残る不快感を早く拭いたかった。
とりあえず着替えるかと思っていた時、不意に扉の開く音が聞こえる。

「早く起きなさいよフォルナ!」

そういって俺の返事を待たずして、金髪ツインテールの少女が部屋に上がりこんでくる。

「なんだよフェニモール。こんな朝早くから。」
「なんだよじゃないわよ!今日は…。」

フェニモールは俺に何か文句を言おうとしたのか分からないが、俺を見て停止する。
俺は何のことか分からずに後ろを振り返ったりしたが特に何もない。

「ん、どうかしたのか?」

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ