第一章
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匹夫の雄
丸橋忠弥は江戸においてその武芸と持っている見事な槍で知られる様になっていた。高名な兵学者由井正雪の片腕としてもだ。
それで幕府も彼の名を覚えていた、大老である松平正之は老中の一人である知恵伊豆と呼ばれている松平信綱に江戸城の中で彼のことを問うていた。
「あの者はどうした者でありましょうか」
「はい、どうも聞いたところでは」
信綱は正之にすぐに答えた。
「長宗我部盛親の側室の子とか」
「あの大坂の陣で豊臣側にいた」
「かつて土佐を治めていたです」
「そうも言われていますが」
しかしとだ、信綱は正之にさらに話した。
「その出自は色々言われています」
「では正体は不明と」
「そう言っていいです」
「話している言葉は」
そこからだ、正之は出自がわかるかと問うた。言葉の訛りでどの国で生まれ育ったのかを見極めようというのだ。
「どういったものでしょうか」
「上手く隠しております」
信綱は正之に鋭い目で答えた。
「そこは」
「土佐の訛りもなく」
「はい」
「左様でありますか」
「御茶ノ水で宝蔵院流槍術の道場を持っていて門弟も多いです」
「そして軍学者由井正雪と親しく」
「由井の片腕と言われています」
信綱はこのこともだ、正之に話した。
「そこまでの者です」
「その由井正雪ですが」
正之はこのことをだ、信綱に問うた。
「どうも怪しいと聞きましたが」
「その下には浪人が多く」
「その浪人達がですな」
「動きの妙な浪人が多く」
「まさか」
本能的にだ、正之はこの危機を察した。大老として将軍家綱を支え幕府の執権の様な立場にいる者としてだ。
「謀反を」
「ご大老もそう思われますか」
「浪人は不満を持っている者が多いです」
確かな立場でないからだ、様々な理由で浪人となったが禄もなく役職もない。それで不満が溜まっているのだ。
「ですから」
「あの者達が謀反を考えていても」
「おかしくありませんな」
「それがしもそう思います」
「若し謀反となれば」
「前に防がねばなりませぬな」
「気をつけておきますか」
二人でこう話していた、二人は由井正雪と浪人達、そして丸橋忠弥に本能的に警戒の念を持っていた。だが。
この時はまだ警戒だけだった、しかし。
信綱が江戸城に登城する時にだ、ふとだった。
大柄で目の鋭い男が犬に石を投げているのを籠の中から見た、それで周りの者達に怪訝な顔で問うた。
「あの者は何じゃ」
「確か丸橋忠弥かと」
家臣の一人が信綱に答えた。
「御茶の水で宝蔵院流槍術の道場を開いている」
「あの者がか」
「はい、そうです」
「酔っている様ですな」
別の家臣が信綱にだ、丸橋の動きを見て言った。見れば
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