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不条理
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第一章

                        不条理
 東京ではだ。嫌な事件が続いていた。
「今度もか」
「はい」
「またです」
「また起こりました」
 制服の警官達だが。トレンチコートの初老の男に話していた。男は細長い顔をしていてやや猫背であるが背は高い。鋭い光を放つ目を持っており髪は白いものが混ざっている。口がややおちょぼに見える小さいものだが引き締まったものだ。
 彼の名を中村眞という。警視庁の警視だ。現場で刑事をしている。
 その彼にだ。制服の警官達が言ってきた。
「それで警視」
「これはやっぱり」
「あれですかね」
「同じ犯人ですかね」
「そうだろうな」
 中村はその犠牲者の亡骸を見て答えた。夜の街は寒い。しかし彼の周りはパトカーの赤いサイレンが光り警官達の熱気が立ち込めている。息は白いが冷たいものではない。
 遠くに赤や青のネオンが見える。しかし彼が見ているはその光ではなかった。目の前にある無惨な若い女の亡骸だったのだ。
 酷い有様だった。
「ゴミ箱に放り込んでですからね」
「強姦した後に首を絞めて殺して」
「その亡骸を全裸にして汚物や動物の排泄物といっしょくたにして放置する」
「こんなの普通しませんよね」
「こんないかれたやり方は」
「そうだ、こんなことをする奴はだ」
 中村は険しい顔で言った。
「そうはいない」
「じゃあ犯人は一体」
「誰なんでしょうか」
「こんなことをする奴は」
「調べる必要があるな」
 ここでだ。中村は考える顔をして述べたのだった。
「大体こうしたことをする奴はだ」
「はい」
「どんな奴でしょうか」
「前科がある場合が多い」
 そうだというのだった。
「強姦で捕まった奴は再犯を行う可能性が高いな」
「そうですね。それはですね」
「確かに」
「変質的であればあるだけだ」
 中村はこのことを熟知していた。これまでの刑事としての人生でだ。そのことを知ってきて捜査してきたからだ。だからである。
「それでだ」
「ではここはですね」
「過去の強姦事件の犯人を洗いますか」
「それもおかしそうな奴を」
「そうしますか」
「そうだ、そうする」
 こう言う中村だった。そうしてであった。
 彼は部下達と共にすぐに強姦による犯人達を調べだした。それは一人ずつでありかなり時間のかかるものだった。しかしであった。
 少しずつだ。犯人が絞られてきたのだった。その中でだ。
「こいつ怪しいですよ」
「それもかなり」
「こいつは」
「そうだな」
 中村は部下達が出してきたその過去の犯人のデータを見て話すのだった。そのデータに載っているのはであった。
「麻倉元保か」
「はい、こいつです」
「過去に強姦事件で三回捕まっています」

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