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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十一話 講和交渉
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と思うんだ。交渉の余地も出て来るだろう。しかし、混乱すればそれは無い」

「よく分からんな、それと明日の交渉に私達が出ない事がどう関係する?」
私が問うとトリューニヒトが“関係は有る”と言った。
「君達に三十年を託したい。特に最初の十年だな、この十年を上手くやり過ごせば同盟市民も落ち着くだろう。その舵取りを頼みたいんだ。私と一緒に失脚して貰っては困る」
「……」
「難しい仕事だが、君達以外に託せる人間が居ない。頼む」
そういうとトリューニヒトは立ち上がって頭を下げた。



宇宙暦 799年 5月 2日    ハイネセン 最高評議会ビル  ジョアン・レベロ



「疲れたかね?」
「ああ、少しね」
ホアンの問いにトリューニヒトが答えた。少しではあるまい、目の下に隈が出来ているのを見ればトリューニヒトがかなり消耗しているのが分かる。三日に及んだ講和交渉はかなり厳しかったのだろう。

「良くやったな、トリューニヒト」
「そう思うか、レベロ」
「ああ、そう思う。この状況下で出来る事は十二分にやったよ。胸を張れ」
トリューニヒトが力の無い笑みを浮かべた。一方的な敗戦、交渉のカードなど何も無い状態での交渉だ。帝国側の提示する条件を受け入れるのが精一杯だったろう。だがその中でトリューニヒトは出来る限りの事をしたと言って良い。

「取り敢えず交渉が妥結した事を喜ぼうじゃないか。決裂するよりはずっと良い」
「そうそう、決裂するよりはずっと良い」
私とホアンが言うとトリューニヒトが“君達は酷い事を言うな”と笑った。ようやく声を上げて笑ったな、トリューニヒト。その方がお前らしくて良い。そして決裂よりもずっとましなのも事実だ。決裂すれば状況は更に悪くなる事は有っても良くなる事は無い。

「明日講和条約の内容を発表する」
「後は同盟評議会での批准だな」
「ああ、なんとか三週間の猶予を貰ったよ」
討議期間は三週間か。トリューニヒトとホアンの会話を聞きながら思った。当初は一週間と帝国側は提示してきた。だが批准には十分な時間が必要だとトリューニヒトが抗議した。帝国側も後々討議の時間も与えなかったと非難されるのは不本意だろうと。ヴァレンシュタインは渋々だが同意したらしい。

「議会は受け入れるかな、トリューニヒト?」
「文句は言うだろうが受け入れるさ。受け入れなければ同盟は即消滅する。受け入れれば三十年は生き延びる事が出来るんだ」
「私も心配はいらないと思う。同盟が無くなれば議員達は失業者だ。給料を貰えなくなる。耳元でその事を囁いてやれば最終的には受け入れるさ」
トリューニヒトが私を見て肩を竦めた。ホアン、相変わらず酷い事を言うな、笑う事も出来ない……。





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