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投げ合い
3部分:第三章
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第三章

「一点もやるつもりはないから」
「一点もか」
「絶対にね」
 そう皆に答える。
「だから安心してよ。この試合絶対に勝つから」
 今のバッターも三振に終わった。それを受けて村山はマウンドに向かう。光正はそれと入れ替わりに自分のチームのベンチに向かう。そこに座るとまずは大きく息を吐き出した。
「見事だな」
 その彼に監督が声をかけた。
「また三振を取ったな、それも三つともだ」
「負けるわけにはいきませんから」
 光正は笑顔で答える。汗だらけの顔が底抜けに爽やかだった。
「絶対にね。勝ちますよ」
「投げて投げて投げ抜いてか」
「はい。けれど相手のピッチャーもやっぱり凄いですね」
「そうだな」
 目の前では村山が投げている。彼は自慢の速球にスライダーとシュートを時折入れてそれで相手を打ち取っていた。監督はそんな彼を見て言う。
「ただ普段に比べて三振が少ないみたいだな」
「少ないんですか」
「むしろ打たせて取っているな」
 彼はそれを見ていた。
「調子が悪いのかな」
「そうは見えませんけれどね」
 光正は村山を見て言った。球威もコントロールも悪くは見えない。むしろかなりいいと思えた。特にコントロールは光正より上に思えた。
「凄い調子いいですよ」
「御前はそう思うか」
「何か打たせて取っているんですかね」
 彼はそう考えた。
「ひょっとしたら」
「あのピッチャーがか」
「気のせいですかね」
「そうだな」
 監督はマウンドの村山を見る。その速球の球威とスピードを見てからまた答えるのだった。
「俺はそうは見えないがな」
「俺の気のせいですかね」
「そうじゃないのか?」
 そのうえでまた光正に答えた。
「正直うちの打線は頑張っているぞ」
「そうですね」
 それは光正もわかる。その気迫が彼にも伝わっているからだ。
「だからだ。凡打につながっているのだろうな」
「そうですか」
 確かにそれはあった。しかしそのうえで村山は打たせて取っていた。そうした意味で光正の読みは当たっていた。しかし監督はそれに気付かなかったのだ。
「どちらにしろどちらが先に崩れるかだ」
「俺かあのピッチャーのどちらかが」
「踏ん張れよ」
 こう光正に声をかけてハッパをかける。
「御前に全部託すからな」
「わかりました。それじゃあ」
「全力で投げろ」
 こうも言う。
「それで最後まで投げて勝て。いいな」
「はい」
 監督のその言葉に頷く。そうして彼はマウンドに向かう。試合は延長戦になり二人の投げ合いが続く。まだ得点は入ってはいない。
「いいピッチャーだな」
 村山はバッターボックスから帰ってナイン達に言った。彼も三振したのである。
「俺以上かも知れないな」
「おいおい、そこまで言うか」
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