暁 〜小説投稿サイト〜
執務室の新人提督
53
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
テーブルに置き、そして提督の隣に座る。
 彼女の座り方は、まるで提督に窺うかの如くにゆっくりだ。提督が、隣ではなく前へ、と口にする可能性も考慮した彼女なりの配慮だ。
 提督からすれば、隣でも前でも、それがその艦娘の個性だろうとしか考えていないのだから、それはただただ無駄な考慮であるが、こういうところこそが翔鶴が赤城をして、ポスト鳳翔さん、と言わしめる所以なのである。
 
「いただきます」
「……いただきます」

 二人が、手を合わせて一礼する。
 赤城ほどではないが、それでも十分大きな弁当箱を手にとって翔鶴は蓋を取った。つられる様に、提督もそれに倣う。
 中にあったのは、翔鶴姉妹が心を込めて作った手料理たちだ。
 だというのに。
 
 箸で口に運ぶ料理達を、提督は味わえないで居た。いや、味はあるのだ。あるのだが、それを確りと認識できていない。何か他の事で思考が占領され、余裕がないのだ。
 常なら舌鼓をうつ料理に、これでは余りに失礼ではないか、と提督は僅かに怒りを覚えた。当然、自身に、だ。
 提督の一瞬の怒気に気付けぬ翔鶴ではない。彼女は口の中にあるプレスカピッツァを上品に飲み込んで口を開いた。
 
「どうされましたか……?」
「……あぁ、いや」

 気遣う翔鶴の視線から目をそらす提督は、本当に常らしからぬ姿である。勿論、そんな事は彼自身が一番良く理解していた。
 しかし、それでも彼は思うのだ。
 この世界の提督らしい提督であろう巨漢の男と、現状の自身との差はなんであろうか、と。
 それは彼自身の悩みであって、手料理を執務室まで持って来た翔鶴には関係ない話だ。関係ない話であるが、それでも提督と艦娘の一つの形である以上、どうすれば良いのか提督には分からないのだ。
 
 何か言わなくては、と彼は珍しく焦った。すまない、申し訳ない。それらの言葉を口にしようと、提督は顔を上げ翔鶴に言葉を発し様として――
 
「はい、どうぞ」

 出来なかった。
 提督の口に、翔鶴が差し出したスーヴラキが入ったからだ。串焼きのそれを焼き鳥と同じように食べながら、提督は隣の翔鶴を見た。
 彼女は、今度はケフテデスを箸で掴んで待ち構えていた。
 これはつまり、暫くこれを口にして黙って欲しい、という事だろうか。と考えた提督は、黙って頷いておいた。
 それに、翔鶴も微笑を添えて頷いた。正解なのだろう。
 
「提督……提督がどこまで深く悩んでいるかなんて、きっと私にははかれません」

 憶測はできても、それ以上は出来ない。人はそれぞれ別の体と心を持っているのだ。分かったと思い込むことは出来ても、真に理解できる事はないだろう。
 それでも、心は心を知りたがる物だ。
 
「提督、私はやっぱり不幸なんだなぁー、って思うことが
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ