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執務室の新人提督
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 思うことは、少なくない。
 果たして自分が縁を求めて、良いことであるかどうか、という事も一つだ。
 大本営という組織は、やはり様々な軍閥によって均衡を保っている側面がある。そういった存在は、下にある存在達が独立的な力を持つことを極端に嫌がる。いや、それも道理だろう。
 古今東西に限らず、権力は下へと流れていく。神から王へ、王から宰相へ、宰相から大臣へ、大臣から貴族へ、貴族から騎士へ、そして騎士から市民へ、だ。春秋、ローマ、ギリシア……それらの教本は実に多種多様にして同一だ。
 
 歴史は何度もそれを繰り返した。
 故に、上は下の結託に過敏だ。まるで毛を吹いて小疵を求めるような時代すらあったのだ。
 今現在の大本営は、当代の元帥が提督達に肯定的な立場である為それほど監視の目が厳しいわけではないが、それでも猜疑に濁った視線が無いわけではない。
 
 せめてもの救いは、彼自身が警戒されるような提督ではないという事だろう。
 今まであげてきた戦果は平凡であり、提督としての能力も凡庸だ。だからこそ、上も接触に何も言わないと彼自身断言できるのだが、それでも可能性は常に考慮すべきである。
 
 ――それが救いとは、なんとも救いが無いではないか。

 と彼は胸中で溜息を零して自身の姿を見下ろした。

「……可笑しいところはないだろうか?」
「大丈夫大丈夫、提督はいつも通り格好よいぞー」

 白い軍服の襟を正す彼の問いに、セーラー服姿の少女が笑顔で応えた。彼は自身を見上げる少女の笑顔を暫し見つめた後軽く咳払いして被っていた帽子を脱いだ。髪を軽く撫でて、彼は髪に乱れがないか手探りで確かめる。
 彼の髪は短く刈られた無骨な物であるが、髪質が固い為乱れると直ぐに分かるのだ。髪を短く揃える様になって以来、彼は常にこの調子だ。
 
「もー……横着してる。ほらほら、睦月の手鏡どうぞー」
「……あぁ、すまない」

 少女の差し出す化粧用のコンパクト鏡を受け取り、彼は小さな鏡に映る自身の顔を見た。鼻も顎も耳も額も口も、すべてが体に合わせた様に大作りだ。そんな中で、瞳だけが特徴的であった。彼自身特に思いいれもないその部位は、しかし見る者に彼という人間を良く理解させた。
 まるで風一つない湖面の様に静かで穏やかなのだ。
 彼は掌にすっぽりとおさまったコンパクト鏡を小刻みに動かし、髪の乱れがない事を確認して小さく頷き、そっと少女にそれを返した。
 
「……ありがとう、助かった」
「いえいえ、どういたまして」

 にこり、と微笑み返された鏡を鞄に戻す少女に、それは言い間違いか理解した上でそれを通しているのかと聞こうとしていた彼の耳に、エンジン音が聞こえた。
 彼と少女――駆逐艦娘の睦月は今自身達がいる執務室の窓から、少し離れた場所に
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