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執務室の新人提督
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た負の側面は感じられなかった。
 巧妙に偽装している可能性もあるだろうが、提督にはどうしても、巨漢提督の穏やかな双眸に嘘や偽りが在る様には思えなかったのだ。
 
「うちの訓練でよければどうぞ……ただ、今回は合同ですけど、そんな凄い訓練でもないですよ?」

 提督の言葉に、初霜も頷いて肯定した。彼ら、彼女らにとっては見慣れた普段の訓練の少しキツイ版、くらいの物だ。
 
 初霜は雪風と睦月を連れ立って、まずはスポーツウェアを用意しましょうか、と言いながら執務室から出て行こうとしていた。
 と、睦月が提督に向かって口を開いた。今度は途中で巨漢提督に問うことも無い。
 
「如月ちゃんを助けてくれて、ありがとうございました!」
「……うん、グラウンドに、僕の如月もいるから……彼女にも言って欲しいかな」
「はい!」

 姉としての睦月の言葉に、提督は微笑んだ。場所は違えど、人は違えど、それでも彼女もまた睦月だ。その主である巨体の提督もまた、信頼に足る人物なのだろうと自然頬が緩んだのだ。
 友を見れば人が分かる。部下を見れば上が分かる。
 歴史がどれだけ巡ろうと、世界が違おうと、人は変わらないものだ。
 
 それぞれ、敬礼して去っていく艦娘達を見届けてから、提督達は揃って頭を下げた。
 
「本当にすいません」
「このご恩は必ずお返しします」
「いやもう、なんかすいません」

 少年提督と巨漢提督には頭を下げる理由はあったが、提督は場に飲まれてである。
 実に日本人的な人間であった。
 三人は同時に頭を上げ、なとなく穏やかな相を浮かべた。少年提督としては、この提督の懐の深さに笑みがこぼれ、巨漢提督としては、この提督の優しさと誠実さに触れた様に思え、良い縁だと頬が緩んだのだ。
 
「いやまぁ、しかしそちらの睦月さんは、真面目ですねぇ……」
「……いや、あれもその、如月の姉として、私の妻として何か考えているようでして」
「あぁそうですか、姉として妻とs」

 そこで提督の動きが止まった。
 彼は暫し考え込んだ後、目を見開いて巨漢提督を穴が空くほど見つめた。顔同様、驚きを隠さぬ声で提督はおずおずと、そしてゆっくりと口を動かした。
 
「え、あの……え、睦月さんが、あなたの、妻で?」
「……はい、そうです」

 提督の様子にも、巨漢提督は特に相を変えず穏やかに返した。恐らく、驚く顔を見慣れているからだろう。
 
「まぁ、先輩と睦月の体格差を見れば、皆驚きますよねー。片桐も、こんな事で驚かさなくてもいいのに」

 少年提督の言葉に、提督は耳をぴくりと動かした。
 提督に耳には、片桐中尉がこれを準備したように聞こえたのだ。であれば、彼としては確かめなくてはならない。
 
「え、彼女は片桐中尉の……
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