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執務室の新人提督
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視線を向けられた提督は一先ずコントローラーをテーブルの上において煎餅を手にした。
 
「このゲーム、前からなんだけども、幽霊より儀式の方が怖いだなぁ、これが」
「せやんなぁ……」

 二人は同時に手に在る煎餅をかじり、未だ目を閉じたままの山城を見た。演技ではなく、本当に怯えている様子の山城に、提督は煎餅を食べ終えると手をハンカチで拭って山城の背を撫で始めた。経験則で、こうすれば多少落ち着くと知っているからだ。
 そんな二人を眺めながら、無造作に煎餅を口に放り込んで龍驤は胸中で呟いた。
 
 ――そら、こんな調子やったら監視役も頼まれるわ、これ。
 
 口の中の煎餅を噛み砕きながら龍驤は天井を見上げた。
 彼女は煎餅を飲み込んでから、すこしばかり口を歪めて山城の背を撫で続けている提督に声をかけた。
 
「なぁ君、もっと怖いのもってないん?」
「りゅ、龍じょ――イタい!?」

 龍驤の言葉に声を荒げる山城だったが、急に頭を上げた為彼女は提督の顎を頭で打ってしまったのだ。涙目の山城よりも深刻なのは提督であろう。
 彼は何一つ言わずただ顎を押さえて肩を震わせているだけだった。その姿だけでも、どれほど痛いか山城と龍驤には分かった。
 常日頃、軽口が多い提督である。それが無言になって痛みを堪えているのだ。相当であると理解できて当然であった。
 
「て、提督、ご、ごめんなさい……大丈夫? 大丈夫ですか?」

 オロオロとする山城を他所に、龍驤は提督の頭に腕を回し自身の胸へと抱き抱いた。
 
「ごめんな、うちが変な事言ったからこうなってもて……ごめんな?」

 優しく頭を撫でる龍驤の姿からは、山城から見ても母性が溢れ出ていた。それゆえに山城は暫し呆然とその龍驤の行為を黙って見ていたが、突如思い出したように提督を奪い返した。
 そのまま、未だ無言の提督を今度は山城が自身の胸へと迎え抱きしめた。その行為にあまり母性は感じられないが、乙女心は垣間見れた。少なくとも龍驤には見えた。
 さて、提督である。彼の顎の痛みは既にそこそこには引いていたが、龍驤の抱擁に何故か不思議な懐かしさを感じ、山城の抱擁には気恥ずかしさの余り言葉が出てこなかっただけである。
 
「ちょ、ちょっと、山城、さん。ストップ、ストップ!」

 山城の抱擁から逃げ出して、提督は自身の頬を数度叩いた。頬に当たっていた山城の女性的な柔らかさを打ち消す為に必要な儀式であったが、龍驤と山城からすれば奇行である。
 二人は心配そうな目で提督を見つめた。
 そんな視線を受けた提督は、心外だ、と鼻で息を吐いてテーブルの上にあるコントローラーを手に取った。この空気を追い払うには、他の何かで気を散らすしかないからだ。
 
「よし、続ける」
「あ、ちょっと待って
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