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執務室の新人提督
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ね……あれも。今は……』

 提督が山城の目から読み取れた思考は、そこまでだ。山城は提督から目をそらし、ソファーから腰をあげ提督へ近づいていく。
 
「あー……何かな?」

 視線も合わず、ただ無言で近づいて来る山城に提督は戸惑いを過分に含んだ目で問うた。ただ、それも無意味だ。山城は俯いて提督に歩み寄ってきている。その目は誰にもぶつからない。
 山城は提督の横まで来ると、腰をかがめて提督の顔を見下ろした。
 
 ――ほら早霜さん、よくある事なんだよこれ。

 かつて、司令官を見下ろすなんて出来ないと言った少女に心中で呼びかけながら、提督はまた口をへの字に曲げた。
 
「顔色は良いのね……ご飯はちゃんと?」
「色々作って貰ってます」
「ちゃんと休んで?」
「程々に仕事して程々に休んでます」
「間食とかしてない?」
「昨夜大淀さんと夜食を少々」
「へー、そー、へーぇー……」
「やだこわい」

 山城の、久々に実家に戻ってきた息子を見る様な目が、最後の質問に返した提督の言葉で一気に濁った目へと変わった。
 
 山城はそっと提督に頬に手を添え、常の相でじっと佇んだ。提督はそんな山城の目を見ようとして――止めた。彼の仕事は判子とサインと艦娘達を誉める事、そして尻尾を振ることだ。
 個人だけに応えるのは、何か違うと彼は考えた。
 
「提督は、私達でなくても良いですからね……」

 唐突な、先ほどの言葉に比べてどこか冷たい山城の言葉に、提督は背に冷や汗をかいた。

「提督は、他の誰かの助けがあればそれでいいでしょう? それは別に、私達じゃなくても良い……けれども提督、私達は違うの」

 提督には山城が突然と声の温度を変えたことは判然と出来ないが、語る内容は判然と出来た。
 確かに、その通りだ。提督は我知らず胸中で零した。風呂やトイレをこの執務室に設置するのも、妖精、または時間は掛かるだろうが業者を呼べばよかった。食事も、持ってくる誰かが必要なだけで、艦娘達が絶対に必要というわけではなかった。提督には。
 
 提督、という肩書き以外に、彼が在る為に艦娘は必要ではなかった。提督という肩書きだけが、艦娘を彼の傍に置いていた。
 山城は提督の頬を撫でながら続ける。目を見開く提督とは、一切目をあわさずに。
 
「私達艦娘には、艦長も砲撃手も舵手も必要としない。けれども、私達は艦なの、提督……」

 空いていた山城の手が、空いていた提督の頬に添えられる。

「提督が、司令が、司令官がいない艦隊は無いの。艦を統べる貴方が居ない私達は、存在する理由も意味も無いの。在るのも、生きるのも。生み出し、見つけた貴方が居るからなんです」

 何が山城をこうも饒舌にさせるのか。提督は山城を見上げようとして、遮ら
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