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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十話 第五次イゼルローン要塞攻防戦
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■イゼルローン要塞

「酷い戦いだったな」
「ああ、全くだ。卿が無事でよかったよ」
「死なずにすんだのが不思議なくらいだ。もう少しでヴァルハラに行っていたよ」
「たいした傷じゃない。そう落ち込むな、ナイトハルト」
医務室で治療を受けるミュラーを俺は慰めた。味方の砲撃で死に掛けたのだ、落ち込みもするだろう。だが落ち込んでいるのは俺も同様だ。戦争がこんなに酷いとは思わなかった。

 第五次イゼルローン要塞攻防戦が終了した。同盟軍の兵力は艦艇約50000隻、帝国軍はイゼルローン要塞とその駐留艦隊約13000隻で行われたイゼルローンの5度目の攻防戦は悲惨な結末で終了した。

帝国艦隊全体が要塞に向って後退を始めた時、同盟軍は並行追撃作戦を行い両軍の艦艇が入り乱れる状態になった。射程内でありながらトール・ハンマーが撃てないという事態が生じ、同盟軍は一気に要塞を攻略しようと攻勢を強めたが、進退窮まった要塞司令官クライスト大将がトール・ハンマーの発射を命令、味方の帝国軍艦艇ごと同盟艦隊を砲撃した。(この時の砲撃でミュラーの乗艦は中破、ミュラーも負傷している)

これによって並行追撃作戦は失敗に終わり、同盟艦隊は残存兵力をまとめて撤退した。同盟軍総司令官シトレ大将は無念だったろう。まさか帝国軍が味方殺しをするとは思わなかったはずだ。あれさえなければイゼルローンは攻略できた。もっともこの失敗が後のヤン・ウェンリーによるイゼルローン要塞攻略に繋がるのだ。そう思えばこの失敗も無駄ではないと言える。

 俺は本来オーディンの兵站統括部第三局第一課にいるのだが、今回イゼルローンへは補給状況の査察で来ていた。戦闘に巻き込まれるのは判っていたが、勝敗も判っていたし俺が前線に出る事は無いと思ったので心配はしていなかった。正直甘かったと思っている。戦争の悲惨さというものをまるで判っていなかったのだ。手足の無い負傷者や、手当ての最中に死んでいく重傷者。あたり一面の血の臭い。何度も吐いた。血の洗礼を受けた気分だったが、それでも死ぬよりはましだということは判っている。 

「卿の意見を上がもっと真剣に聞いていればな。あんなことにはならなかった」
「無理だよ、ナイトハルト。実戦経験の無い小僧の意見を誰が聞くんだい」
「俺は聞いたぞ。ヴァレンシュタイン中尉の意見をな」
「光栄だね。ミュラー中尉」

 俺は戦闘が始まる前に要塞司令官クライスト大将、駐留艦隊司令官ヴァルテンベルク大将に並行追撃作戦の可能性を訴えたが、両者は相手の事を貶すだけで、まともに俺の意見を検討しようとはしなかった。地位も権限も無い小僧の意見など誰も重要視しない。自分の無力さをいやと言うほど思い知らされた。あげくの果てに味方殺しだ。今頃はクライスト大将とヴァルテンベルク大将の間で殴りあいの1つ
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