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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九話 少尉任官
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 帝国暦481年、俺は士官学校を卒業し無事少尉に任官した。
「もう此処に来ることは無いだろうな」
 思わず俺の口から言葉が漏れた。此処、図書室は自室を除けば俺が一番長くいた場所だった。どれだけの時間を此処で過ごしたろう。俺はいつも使用していた視聴覚用ブースに座った。明日からは一体誰が此処を使うのだろう。ぼんやりとそんな事を考えながら、ただ座っていた。

「エーリッヒ、やっぱり此処にいたか」
「だから言ったろう、此処だって」
「探したぞ」
口々に話しながら入ってきたのは、ミュラー、フェルナー、キスリングだった。

「どうした? 懐かしいのか」
「わからない。ただ、なんとなく此処へきていた」
俺たちは顔を見合わせるとなんとなく苦笑した。俺と付き合うようになってから約三年、当然だが彼らも此処へ来ることが多かった。懐かしさは有るだろう。

「ところで配属先は聞いたのか」
「ああ。兵站統括部第三局第一課に配属になった。イゼルローン方面への補給を担当する所だ」
「惜しいな、軍務省の官房局へという話も有ったんだろう。君なら、いや卿ならそっちのほうが向いていたんじゃないか」
「そんな事も無いさ。イゼルローンへの補給は大事だよ」
「でも帝文に合格したんだからな」

 「帝文」、「帝国文官試験」と呼ばれる試験に俺は今年合格した。高級官僚の採用試験であり、試験に合格すれば貴族、平民の出自を問わず高級官僚に登用される事が可能だ。合格者には文官(行政官)、判事、検事、弁護士に登用される資格が与えられた。俺の父もこれに合格している。

 リップシュタット戦役後は民間企業に就職しようと考えていた俺だが、よく考えてみれば官僚も悪くないと思った。民生、工部の両省が新設されるし、宇宙が統一されれば新領土も出来る。官僚の仕事は増えるだろう、やりがいも有る。官僚が嫌なら弁護士になってもいいし、民間企業でも使える。

 俺の合格は士官学校始まって以来の事だった。合格直後の事だがノイラート校長に呼び出され、卒業後任官するのか、任官せずに官僚になるのかとしつこく聞かれて困った。俺が成績優秀にもかかわらず、戦略科を選択しなかった事が引っかかっていたらしい。希望配属先もそうだった。士官候補生は卒業前に希望配属先を書いて提出する。

 俺は兵站統括部への配属を希望したのだが、校長室へ呼び出されて軍務省の官房局へ行かないか、法務局はどうだと何度も勧められた。どうも官房局と法務局から俺の希望配属先について問い合わせがあったらしい。「帝文」に合格しながら兵站統括部というのは何かの間違いではないかと。

 俺としては軍務局にも法務局にも行く気は無かった。軍務局だが此処はエーレンベルク元帥の腹心達の溜り場だ。こんな所にいたらエーレンベルクの一味だと思われ、ラインハル
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