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Element Magic Trinity
蛇髪少女は黒装束の手を取った
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「それでは…途中で不快な思いをされましたら、いつでもお申し付けくださいませ」






―――――それは、少女が自分の存在意義を見出した話。
1人の青年と1人の鉄竜に背中を押された、大切な大切な思い出だった。










蛇髪。
それは無関係の誰かがそう呼び始めた訳でもなく、そういった正式な名称が付けられている訳でもなく、ただ“それ”と呼ぶ事に抵抗を感じ始めた頃にシュランが付けた名である。
蛇になる髪だからとそのまま付けた名を持つそれは彼女が虐げられる原因で、けれど誰からも―――いや、たった1人以外から見捨てられた少女にとっては大事な友達だった。時折髪の数本を蛇に変えては寂しさを誤魔化し続け、辛い現実から目を背けて。そうでもしなければ耐えられないほどに、町民達の言葉はシュランを傷つけている。今だって、悪夢として蘇ってくるくらいには。
けれど、その中にも辛さや寂しさ以外のものもちゃんと存在して、それが彼女の待ち人たる青年だった。

「…そろそろ、ですよね?」

時計のないこの場所では正確な時間が解らない。だから大体が勘になってしまうのだが、彼が来てくれる時間だけはいつだって勘ではなく確かなものだった。それはいつも同じ時間帯に来るというのもあれば、来る度に毎回来た時間を言うからかもしれない。声が期待で弾むのを自覚しながらも抑えられなくて、自然と笑みが浮かんだ。
来る日もあれば結局来ない日もあるけれど、どうしても毎日のこの時間帯は目が扉から離れない。深くなる笑みを堪えきれないまま、そっと呟く。

「ザイール様…今日は来てくださるでしょうか……」






「入るぞ」
「は、はいっ」

ぶっきらぼうな口調が扉の向こうから聞こえた。呟いた直後の事態に、上擦りかけた声をどうにかいつものそれに落ち着かせて答える。その返事を待ってから、ガチャリと鍵が回る音。以前は粗末な閂程度だった鍵を真新しいものに変えて取り付けたのも彼で、世話の為に鍵を貸せと詰め寄る町民達に「アイツの面倒は俺が見るから黙っていろ」と言い放ったのだと涼しい顔で話していたのはつい数週間前くらいの事だ。それ以来、彼以外は誰もここに来ない。近づく事もなくなった。
と、そんな事を思い出している間にも、扉の間から黒ずくめの青年が顔を覗かせる。つり気味の目がこちらを見つめ、ふっと微笑んだ。

「…元気か?」
「はい。こんにちは、ザイール様」

あまり堅苦しくされるのは、昔からの事ではあるが好きじゃないんだ―――彼がそう言っていたのをしっかりと覚えている。だから、以前までは御機嫌ようだの何だのと堅苦しい挨拶だったのを、彼女にしてはフランクな挨拶に切り替えた。相手を不快にさせていては、敬いも何もない。

「それならよか
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