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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四話 敵の正体
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も起きてこない。彼の部屋に連絡を入れても通じない。心配した同僚が彼の部屋に行くと、アウグストは冷たくなって横たわっていた。急性頭蓋内血腫だった。リメス男爵家の跡継ぎになる喜びを抱えたまま死んだのだ。幸福だったのか、不幸だったのか。

 1ヵ月の間に跡継ぎがいなくなり当主が病弱な老人となれば、男爵家の継承を狙ってハイエナどもが動き出すには十分だった。この場合ハイエナというのはリメス男爵家の親族だ。リメス男爵には妹が三人いた。それぞれヴァルデック男爵家、コルヴィッツ子爵家、ハイルマン子爵家に嫁いでいたが、みなハイエナになった。陰惨な相続争いが発生したのだ。

 自分が男爵家を手に入れるために使用人を取り込む、自家を推薦させる、他家を貶める、リメス男爵の考えを知ろうと盗聴する、日記を盗み見る。リメス男爵家の執事は男爵とは70年以上の主従関係にあった。主従というよりは親友であっただろう。使用人たちを厳しく監視し、男爵家のためにならないと見れば容赦なく叩き出した。
 
 そしてある日、死体となって発見された。男爵が殺されなかったのは皮肉にも彼らの貪欲さのおかげだった。リメス男爵が後継者を決めずに死ねば、男爵家の財産は三等分され、爵位は返上される。リメス男爵家はそこそこ裕福な家ではあったが三分の一ではあまりにもうまみが少なかった。彼らはすべてを欲したのだ。

 こうした状況はリメス男爵にとって地獄だったろう。孫息子二人を無くし、親友である執事まで失い、周りには信用できない使用人が溢れている。彼は自分を地獄に落とした親族を呪い、復讐を誓った。彼ができる唯一の復讐は爵位及び財産の国家への返上だった。ここで俺の両親が登場する。俺の父はリメス男爵家の顧問弁護士をしていた。有力貴族の顧問弁護士というのはそれなりに評価される。ハインツと父の法律事務所がそれなりに繁盛していたのもリメス男爵家のように顧問弁護士をしている家が他にも何家かあったからだった。

当然ハイエナどもは父に対して色々と見返りを提示して協力を依頼したが、父はリメス男爵の意向に従うと返答し相手にしなかったようだ。それもリメス男爵が殺されずにすんだ一因だろう。顧問弁護士が見返りに目が眩んで勝手に養子縁組の手続きをすることだってありえたのだ。

リメス男爵にとって父は信頼できる人間だった。男爵は父に典礼省へ爵位、財産の返上の手続きを取ってくれと依頼した。もちろん極秘でだ。そしてハイエナどもが気付いたときにはすべての手続きが完了していた。彼らはリメス男爵の判断を呪い、自分たちの相続の正当性を訴え、父を憎悪した。平民風情が我々の正当性を否定するのかと。

「それで父さんと母さんを殺したの?」
「多分、いや間違いなくそうだ」
「どこの家がやったの」
「それは……判らない。一番怪しいのはヴァルデ
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