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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十九話 その流れは伏龍の如く
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皇紀五百六十八年 七月二十六日 午前第八刻 伏龍川 大龍橋 
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 佐脇利兼少佐


 迷彩色の軍装を纏い、猫を引き連れた男達は疲労の色を浮かべながらも確かな足取りで整列した。

 大隊最先任曹長が点呼をかける、その数は――皇都を発った時と比べて明らかに目減りしている。ついに独立捜索剣虎兵第十一大隊は遂に大龍橋を渡り、龍前国からようやく龍後国へと至ったのだ。
「大隊長殿、点呼終了!総勢五七七名!総員渡河に成功しました!」
 佐脇は意識して深く呼吸をし、気を静める。先の夜襲の前は鋭兵二個中隊の増援を得て総計千名に届くほどに戦力を回復していたはずだ。それがこのざまだ。
 ――だが、目標は達成した、敵は一時的に追撃を諦め第三軍はこうしてどうにか渡河を行う事に成功した。ならば――自分は成功した、と考えるべきだ。
「佐脇大隊長、無事のお戻りでなによりです」
 後衛戦闘隊戦務幕僚の石井少佐だ。佐脇よりも先任であり、この後衛戦闘隊の序列3位である。
 わざわざ第十一大隊を出迎えに来たというわけではないようである。
「こちらは西州第七工兵連隊第三大隊 桐坂大隊長殿だ」
 中年の将校に佐脇は敬礼をささげる。
「やはりここで陣地戦を挑む予定ですか」

「はい、ここは伏龍川における最大の渡河点です、ここで時間を稼ぎたいところです」
 石井が答え、桐坂が補足する。
「我々は第一陣として渡河し、一昨日からここで作業に入り、ほぼ築城は完成させた、あとは砲の配置を終えたら蔵原に向かう――かき集めるだけかき集めた、あとの支援は六芒郭にでも行かなければならんぞ」

「六芒郭?あそこは使えるのですか?」
 あの要塞は曰くつきどころのものではない、幾度も大騒動を起こし、執政府と軍部の権威を揺るがせ、衆民院の勢力争いに利用され――いまだに未完の要塞、否、要塞ですらない新兵訓練所としてしか使われていない。
「俺は知らん、だが物資をあそこに集積しだしたと聞いている、皇都で動きがあったのだろう」


 佐脇は首肯しながらも考えをめぐらす。佐脇が今求められている事は武勲を挙げる事、そしてそれによって新城直衛の駒城における不当な――と彼が考えている――影響力を取り除き、重臣団と主家のあるべき姿を取り戻すことだ。守原英康は信用ならぬが新城を抑え込み、駒州公爵家をあるべき姿に戻せば後は‥‥

 佐脇は馬の足を速めさせる、小半刻程馬に揺られた先の小集落。そこは既に迷彩色の軍装を纏った兵達が歩哨に立ち、中では兵達が思い思いに身を休め、下士官と将校達は帳面をにらみつけ、あれこれと相談をしている。如何な思惑があろうとも第十一大隊は漸く後衛戦闘隊の中枢にようやく辿り着いたのだ。



「失礼します!司令殿!独立捜索剣虎兵第十
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