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豹頭王異伝
波瀾
交渉の基本
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ては俺が責任を負う。
 クム大公国や沿海州諸国、草原地方や自由国境地帯の自治領は同意を得ておらぬが已むを得ぬ。
 キタイの民を蹂躙する異世界の精神集合体を駆逐する為、別の調整者が現れるだろう。
 俺は中原を守護する調整者として面倒な精神生命体を駆除する為、相討ち共倒れを厭わぬ!」

「やめんか馬鹿たれ、おのれは限度と云う物を知らんのか!
 ナリスもナリスじゃ、掟破りの馬鹿者を嗾けてどうする!!
 虚仮脅かし《ハッタリ》や虚勢《ブラフ》の類も時と場合に拠る、好い加減にせんかい!」
 曲がりくねった杖を振り廻し怒号する齢814歳の若者、グラチウスの狂態に眼を丸くする2人。
 ヨナとヴァレリウスの観察結果を、古代機械の念話増幅装置が中継。
 ナリスの思考が閃き、グインと視線を交錯。
 パロ聖王国を代表する策謀家は優雅に首を傾げ、涼しい顔で呟く。
「白魔道師を魔道十二条に縛られる茶坊主、と宣った老師の御言葉とも思えませんね。
 ドールに剣を捧げた地上最強の黒魔道師、老師様は何時の間に転向されましたので?」
 ヴァレリウスの唇が震え、自称816歳の若者は年甲斐も無く喚いた。

「この裏切り者め、笑っとる場合か!
 貴様も魔道師ギルド、白魔道師の一員だろうが!!
 魔道十二条を破れば重大な副作用を呼び、己の身を滅ぼす事ぐらい知っとるわい!
 人の事を散々、黒魔道師の横紙破りと非難しおって!!
 腹黒い狸め、地獄に墜ちろ!」
「私は老師の足許にも及ばぬ若輩、か弱い善良な白魔道師に過ぎませんです。
 人類を代表し異世界の精神集合体、侵略者と闘う英雄に心底より敬意を払います」
 皺だらけの顔を真っ赤に染め、美の裁定者を糾弾する老魔道師。
 大先達の狂態を眺め、梟の如く惚ける魔道師軍団の実質的指揮官。

「やかましい、人の揚げ足を取って喜ぶな!
 貴様は真面目が取り柄と思っとったが、グインやナリスと変わらん!!
 世も末じゃ、まともな魔道師は儂だけじゃないか!」
 トパーズ色の瞳が煌き、豹頭の戦士は吼える様に哄笑。
 涼やかな笑い声を響かせる美の裁定者、アルド・ナリス。
 失笑を湛え、敬愛する主を注意深く見守る参謀長ヨナ・ハンゼ。
 深い溜息を吐く魔道師軍団の実質的指揮官、ヴァレリウス。

「諸々の事前準備は総て完了したもの、と愚考致します。
 この辺で茶番は御仕舞い、と致しましょうか。
 噂に高い魔王子、アモンも聖王宮の奥処から一部始終を見ていた事でしょう。
 キタイの反乱鎮圧を急ぐ竜王も、古代機械は喉から手が出る程に欲しい筈。
 現在只今より我々は聖王宮の一角、ヤヌスの塔が匿す地下格納庫に転移します。
 リンダには、マルガに残って貰いますがね。
 地上最強の魔道師殿、如何されますか?」


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