第一部
第二章 〜幽州戦記〜
六 〜邂逅〜
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は、一体……」
だが、その問いには答えない。
「愛紗。私の言いたい事は、わかるか?」
「……例え、一時の屈辱に塗れようとも、生き延びよ。そう、仰せられるのですか?」
「そうだ。だが、それだけではない」
「はい」
「今の愛紗は、『義』に拘りすぎている。もっと、心を広く持て。私への忠義ばかりでなく、な」
「……仰せはわかるのですが、どうすれば良いのか……」
そうか。
……多少、卑怯だが、荒療治でいくか。
私は席を立つ。
「ご主人様?」
「愛紗。……正直に答えよ」
「は、はい」
「……私の事を、どう思っている?」
「え、ええっ?」
途端に、真っ赤になる愛紗。
「言えぬのなら、無理に答えずとも良い」
「い、いえっ。……その、お、お慕い申し上げております」
「ふむ。それは、仕えるべき主君として、か?」
「ち、違います!……勿論、主として敬愛しておりますが……。ひ、一人の殿方として……」
「そうか。つまり、好いてくれている。そう、受け取って良いのだな?」
「……ご、ご主人様。これ以上、意地悪なさらないで下さい」
口調は強がっているが、何とも愛らしい。
そんな愛紗を、そっと抱き締める。
「ご、ご主人様……」
「嫌か?」
「い、いえっ!……良いのですか、私のような、無骨者を」
「無骨、か。愛紗がもしそう思っているのなら、それを改めさせる必要があるな」
「あの……ご主人様?」
愛紗の顎に指をかけ、ゆっくりと持ち上げる。
「…………」
そっと眼を閉じる愛紗。
そんな愛紗の香りが、鼻腔をくすぐる。
「初めてであったか……辛かったか?」
「……いえ。ご主人様が、優しくして下さいましたから」
私の隣で実を横たえる愛紗は、本当に艶っぽい。
もともと美形ではあったが、それが一気に花開いた、そんな気がする。
「愛紗」
「はい」
「さっきの問答だが。私を愛するのなら、死ぬな。何としても生きよ」
「……はい」
「その為には、皆に好かれ、また皆を大事にする事だ。強さも大事だが、驕りは己を滅ぼす。忘れるな?」
「わかりました。この愛紗……ご主人様のため、生き抜きます」
「それでいい。さあ、今宵はもう休むがいい」
「……あの」
「何だ?」
愛紗は、頬を染めながら、
「朝まで、ご一緒させていただけますか?」
上目遣いに、そう言った。
「……いいだろう。共に、眠ろう」
「はい」
心地よい眠りに、私も引き込まれていった。
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