3部分:第三章
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第三章
「ですから」
「エル=ドラードを見つけたいのかい」
ポンスは彼女の言葉を聞いて腕を組んだ。太く丸太の様な腕である。それと身体全体を見ると学者というよりはプロレスラーに見える。
「君も」
「そうですよ。だから学者になったんですし」
「まさか同志だったなんてな」
「最初から同志だったじゃないですか」
シッドはまた彼に言葉を返してきた。
「だから教授の助手になったんですよ」
「そうだったのか」
「って何で知らなかったんですか?」
「そこまで考えてなかったんだよ」
申し訳なさそうに述べるポンスだった。
「実はね」
「考えてなかったって」
「いやね、あれなんだよ」
その申し訳なさは顔にも出ていた。首を捻りながら困った笑顔になっていた。
「エル=ドラードのことばかり考えていてね」
「私はただの助手だったと」
「うん、そうなんだ」
まさにそれだけだったのだ。彼が考えていたシッドは。
「それで私に付き合ってくれてるんだとばかり思っていたよ」
「この大学に就職したのはたまたまですけれど」
「エル=ドラードはかい」
「はい。どの大学に入っても同じでした」
同じだというのである。
「やっぱり」
「そうなのか。君もそこまで思っていたんだね」
「夢があるじゃないですか?違いますか?」
「夢かい」
「そうですよ、教授だっておわかりですよね」
あらためてポンスに尋ねてきた。
「エル=ドラードって何なのか」
「黄金に満ちた場所」
語るポンスの目は今そこにあるものを見てはいなかった。黄金に輝く世界を見ているが見ているのは黄金ではなかったのだ。
「僕はね、あれなんだよ」
「黄金はどうでもいいんですね」
「お金は必要なだけあればいいんだよ」
この辺りは実に無欲なのだった。彼は大食漢であり食べることにはそれなりに金を使っているがその他のことには至って質素な人間であるのだ。だから贅沢には興味もなかった。
だから黄金自体には興味がなかった。それ自体にはである。
「あるって言われているけれど誰も見たことがない」
「夢ですね」
「そして。キザな台詞だけれど」
一旦前置きしたのだった。
「あれだよ。幸せかな」
「そうですね。幸せですね」
シッドもその言葉に頷く。
「それって」
「見つけたいんだよ、だからね」
「その幸せを」
「今でも幸せだよ」
無欲な彼らしい言葉だった。
「ただね。その夢を見つけられる幸せをね」
「見つけたいですよね」
「いや、ここまで志が同じだなんて」
「それじゃあすぐに行きましょう」
シッドは言ってきた。
「もう今すぐにでも」
「おいおい、気が早いな」
そんな彼女の言葉を聞いて顔を崩したのだった。
「準備があるじゃないか」
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