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悠久のインダス
4部分:第四章
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第四章

「巨人のものです」
「巨人か」
「はい、そしてこの女神はです」
「何ていう女神なんだ?」
「カーリーといいます」
 それがその女神の名前だというのだ。
「それがこの女神の名前です」
「カーリーか」
「我が国の、ヒンズーの神々は御存知ありませんでしたか」
「そっちには詳しくないんだよ」
 こう話す隼士だった。首を傾げさせていた。
「ちょっとな」
「成程、神話はですか」
「ああ。あまりな」
 また答える彼だった。
「造詣が深くなくてな」
「そうですか。では仕方ありませんね」
「悪いな」
「いえいえ、謝る必要はありません」
 ガイドはそれはいいとした。
「それでこの神ですが」
「説明してくれるか」
「それが私の仕事ですので」
 ガイドのだというのだ。職務に実に忠実である。
「ですから」
「それじゃあ頼めるか?この女神は何なんだ?」
「戦いの女神です」
 それだといのである。
「破壊神シヴァの妃の一人にして破壊と殺戮の女神です」
「破壊と殺戮!?」
 それを聞いてだ。隼士の顔が一気に強張った。
「それってまずいだろ」
「えっ、まずいですか?」
 今度はガイドがきょとんとなった。
「それが」
「いや、破壊と殺戮だろ」
 彼が言うのはこのことだった。
「じゃあこの女神って邪神か」
「いえ、邪神ではありません」
 ガイドはそれはすぐに否定した。
「間違ってもです。邪神の類ではありません」
「けれど破壊と殺戮だろ?」
「はい、それはその通りです」
「じゃあ邪神じゃないか」
「破壊は世界にとって必要なものです」
 そうだとだ。隼士に話すガイドであった。
「創造、調和と並んで」
「その二つはわかるけれどな」
「破壊はわかりませんか」
「それって必要か?」
 隼士は眉を顰めさせながらガイドに問い返した。
「何もかもぶっ壊すんだよな」
「その通りです」
「何でそれが世の中にとって必要なんだよ」
「ですから。何もかもを壊してそのうえで創り出すものですから」
 ガイドの言葉は何時しか極めて哲学的なものになっていた。それはまるで僧侶が宗教を語るような、そうした宗教的なものすらあった。
「だからなのです」
「それでかよ」
「はい、ですから破壊はです」
 ガイドの言葉が続けられる。
「いいことなのです」
「じゃあこの女神様もか」
「はい、善神です」
 そうだと。隼士にはっきり言い切るのであった。
「悪しきものを破壊し殺戮するのですから」
「だから善神か」
「おわかりになって頂けたでしょうか」
「いや、全然」
 それははっきりと否定する彼だった。
「話は聞いたが理解なんてできねえよ」
「左様ですか」
「けれど。それがインドなんだよな」

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