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赤い靴
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第一章

                     赤い靴
 古い歌だ。誰でも知っている歌だ。

 赤い靴履いてた女の子

 この歌は人買いの歌だとも言われている。横浜で流行り出したとも言われている。しかし真実はわからない。だがこの歌に恐怖を覚える子供は多い。
「赤い靴を履いている女の子は何処だ」
「いたら早く出せ」
 最近こう言って女の子を探し出して襲い掛かる不審者のことが噂になっていた。警察でもその話でもちきりであった。
 神奈川県警でもこの話ばかりだ。県警本部の刑事課で事務用の無機質な机に座りながら今二人の私服の警官達がその話に興じていた。
「それで何なんですかね」
「何なんだって?」
 年輩の眼鏡をかけた武骨な顔の男が細長くやや赤い顔の若い男の言葉に応えていた。年輩の男は松本明憲といい若い方を金田竜一という。刑事課でコンビを組んでいる。
「その赤い靴を履いた女の子を探している奴ですよ。何者ですかね」
「考えられるのは。そうだな」
 松本は右手に白く大きなコーヒーカップを持っている。それを手に金田に話をしていた。コーヒーの湯気と香ばしい香りが漂っている。
「昔の歌だよな」
「あの歌ですね」
「あれみたいに人買いとかな」
「今頃ですか!?」
 金田は人買いと聞いて顔を顰めさせた。彼は松本と向かい合って座り机の上にあるアーモンドチョコを一個ずつ口の中に入れている。チョコレートとアーモンドの二つの味が程よい感じで口の中で溶け合っている。
「人買いなんて」
「普通にいるだろ」
 しかし松本はこう金田に告げた。
「そんなの何処にもいるぞ。ヤクザとかがやってるだろ」
「あの連中ですか」
 言うまでもなく警察の宿敵である。二人も随分とやり合ってきている。
「じゃああれですか。ヤクザが女の子を攫って売り飛ばすとか」
「それにしてはおかしいだろ」
 松本は今度はこう言ってきた。言い終わったところでその香ばしいコーヒーを口に含んだ。
「ヤクザなら赤い靴の女の子だけ狙うか?」
「売れそうだったら誰でもですかね」
「そうだろ。ほら、カルト教団とかだったらな」
「ああ、あの連中も」
 そちらにも話がいく。彼等にとってそういう手のカルト教団は忘れられない存在であるのだ。
「それもありますかね」
「奴等の論理はわからないだろ」
「ええ、かなり」
 極めて独特の論理で動いているのは間違いない。それを理解することは極めて困難だ。だから今回もひょっとして、と金田は思ったのだがふと思った。
「今そういうのマークしてるっていったら」
「そんなにないだろ」
「ですよね。やっぱり宗教団体に話をやるのは公安でも二の足ですし」
 それが現実だ。宗教弾圧とみなされるのを恐れているのである。もっともこれがかつてのオ
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