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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十七話  反撃
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にやりと笑うのが見えた。

同盟軍との間には未だかなり距離が有る。艦隊の配置を再編しながら追撃しても問題は無い。同盟軍に逆撃を受ける事は無いだろう。でも先頭に立つ? もしかすると逸っている? 司令長官の表情からは興奮は感じられない。訝しんでいると司令長官が私を見た。そして苦笑を浮かべた。どうやら私の疑問が分かったらしい。

「追撃戦というのは無秩序なものになり易いんです。そして無秩序になれば逆撃を受け易い。特に今回は十分に戦っていませんから皆に不満が溜まっています。その分だけ危険です」
「だから先頭に立つと?」
「そうです。ここまで来て詰めを誤る事は出来ません。我々は秩序を持って追撃します。目的は同盟軍の追尾と捕捉、敵戦力の削減は副産物ですね」
はあ、溜息が出そう。リューネブルク大将は笑い出しそうな顔をしている。司令長官閣下が私と大将を見てちょっと不満そうな表情を見せた。



宇宙暦 799年 4月 16日  同盟軍総旗艦リオ・グランデ  ドワイト・グリーンヒル



総旗艦リオ・グランデの艦橋は重苦しい空気に包まれていた。皆の表情は厳しい、ビュコック司令長官も沈黙を保ったままだ。何かを考えているようだが……。撤退を決断してから既に二日が経とうとしている。同盟軍は撤退し帝国軍がそれを追いかける、その展開が四十時間近く続いている。両軍の距離は少しずつではあるが縮まっている。

最後尾を務める第十艦隊のウランフ提督と第十三艦隊のヤン提督が三度帝国軍を足止めしようとした。だが帝国軍は両艦隊を撃破しようとはしなかった。彼らは正面において同盟軍を牽制しつつ一部隊を迂回させ後方を遮断しようとした。第十艦隊、第十三艦隊は挟撃される事を恐れ帝国軍の足止めを諦めざるを得なかった。今は後退に専念している。

第十艦隊、第十三艦隊に大きな損害は無い。両艦隊とも千隻に満たない損害を受けただけだ。帝国軍は同盟軍を撃破する事よりも捕捉し追尾する事を優先している。何も知らない人間が見れば敵味方十三個艦隊が整然と移動しているようにしか見えないだろう……。帝国軍の狙いは分かっている。別働隊との挟撃だ。だから二個艦隊の撃破よりも同盟軍全体の追尾と捕捉を優先している。おそらく帝国軍の別動隊はこちらに向かっているに違いない。

ビュコック司令長官と何度か話し合った。このままでは挟撃される可能性が高い、反転して帝国軍に向かうべきではないかと。別働隊もこちらに向かっているのだ、上手く行けば各個撃破が可能だ。だが追撃してくる帝国軍は慎重だ。不意を突いて反転しても捕捉出来るかどうか……。如何考えても難しかった。結局の所別働隊の進路を予測しそれを避ける航路を進もうとなったが……。

「そろそろ良いか」
ビュコック司令長官が呟くと私を見た。表情には笑みが有った
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