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相模英二幻想事件簿
File.1 「山桜想う頃に…」
Z 同日 PM9:55
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「佐野さん、ここは?」
 私達は松山警部の計らいで、佐野さんにとある場所へと連れてきてもらっていた。そこは古い木造の建物で、あちこちに修理した箇所がみてとれた。
「こんなでも町役場ですよ。署を出る前に連絡を入れたら、資料を揃えておくと言ってました。」
 これまた随分と親切になったもんだ…。今朝まで留置されてた筈なんだが…一体何が原因だ?私は多少訝しく思いながらも、先へ行く佐野君を藤崎と一緒に追った。
 私達が町役場の中に入って見ると、中は想像に反して意外と近代的だった。それぞれの机にはパソコンが置かれ、奥には最新式のコピー機まである。エアコンは無論としても、何で自販機があるんだ…?確か外にもあった筈だが…まぁ、いいか。
 私達が入って直ぐ、初老の男性が奥からこちらへと向かってきた。佐野さんが連絡をつけていた人だろう。
「お待ちしてました。連絡頂いていた件ですね?」
「はい。こちらのお二人が、電話で話していた探偵の相模さんと、音楽家の藤崎さんです。」
 佐野さんがそう言って私達を紹介するや、その初老の男性は態度を一変させて、私達…と言うより藤崎へと握手を求めてきた。
「私、この役場で部長をしております米屋謙吾と申します。まさか…こんな場所で藤崎様にお目にかかれるとは思いもしませんでした!」
 そう言われた当の本人は、意味が分からず唖然としている。
「あのぅ…どこかでお会いしたことが?」
「これは失礼致しました。私、先生の演奏の大ファンでして、いつもCDを聞かせて頂いております。お顔はお写真で…。」
 どうやら藤崎のファンのようだ。こいつ…いつの間にCDなんて出したんだ…。
「京。お前、CDなんて出してたのか?」
「ん?一応は出してるよ。まぁ、あんまり有名な作曲家のじゃないから…。」
「誰のだ?ハイドンか?モーツァルトか?」
 私は古い知識からなんとか作曲家の名前を探して聞いた。以前は楽器をやっていたが、私は藤崎のやる古楽では無かったため、古すぎると実はさっぱり分からない…。
「いや、そんなに有名な作曲家じゃないよ。ラインケンにブクステフーデ、それにエマヌエル・バッハだ。」
「エマヌエル…バッハ?バッハは有名だろ?」
 私が不思議そうに聞くと、横から何故か米屋さんが口を挟んだ。
「相模さん。エマヌエルは有名なセバスティアン・バッハの次男ですよ。先生が出されたのは、その次男の協奏曲集です。」
 私は半眼で藤崎を見たが、藤崎は「そう言うこと。」と言って笑ったのだった。私はちんぷんかんぷんなのだが、無論、横にポカンと立っている佐野さんも同様だった。
 おっと…こんな話をしにきた訳じゃなかったな。
「それで、資料は用意して頂けましたか?」
「はい。会議室にご用意してありますので、そちらでお調べ下さい。」
 私が
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