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相模英二幻想事件簿
File.1 「山桜想う頃に…」
U 同日 PM1:48
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なんですねぇ…。」
 私が料理を見ながら感心して言うと、今度は桜庭さんが口を開いたのだった。
「ええ!染野さんは京都の老舗料亭で働いていたんですから。でも、数年前に彼の母が病気で倒れた時、この町に帰ってきたんですよ。女将さんは染野さんの腕をただ錆びてゆくのを放っておけないと考え、旅館の厨房にとスカウトしたんです。」
 私は驚いた。確かに、この料理はどれも素晴らしいものばかりだが、女将自らスカウトしに行くものなのか?それも話だけで?
「女将さん…もしかして、染野さんの料理をスカウト以前に召し上がったことが?」
 私は女将にそう尋ねると、女将は笑って答えた。
「勿論です。実を申しますと、染野は私の遠縁なんです。曾祖父の弟の曾孫にあたりまして、彼が京都の料亭に入ったと聞いた時、直ぐに客として行きました。」
「あれ…?女将さん、東京のご出身じゃ…。」
 何だか変な気がした。染野さんは確かこの町に母がいて、それで帰ってきたはず…。なのに、女将の話はその染野さんと以前から知り合いだった風に話してるのだから、こちらはチンプンカンプンだ。
「あら、これは失礼致しました。私の母と染野の母は知り合いでして、大学からの付き合いだと聞いております。そのため互いに結婚式にも招きあい、ずっと連絡を取り続けてたんです。」
「なるほど…。」
 これでやっと話が見えてきた。しかし…縁ってのは不思議なもんだと思う。まさか、友人が自分に縁のある人物と結婚するなんて思わないしな。
「やだ、私ったらこんなことをお客様に話すなんて!さぁ、冷めないうちに召し上がって下さい。」
 女将は恥ずかしげに頭を下げて言った。私達もそれ以上聞くのもどうかと思い、「それでは、頂きます。」と言って料理に手をつけたのだった。
 料理は見栄えもさることながら、味も絶品だった。何と言うか、素朴ながら素材本来の味を生かし切り、そこに作り手の思いが垣間見れる料理と言うべきか?
「女将さん。この夕食を食べれただけで、この旅館に泊まったかいがありますわ。」
 珍しく、亜希が他人を誉めた…。明日はきっと槍でも降るんじゃないか?
「あなた?今、失礼なこと思わなかった?」
「いいや!何にも思ってないぞ?」
 私が亜希の言葉に返しているのを見て、女将は笑いながら亜希へと言った。
「先の感想、染野に伝えておきますわね。」
 そう言い終えると、女将は「私はここで失礼させて頂きます。」と言って深々と頭を下げ、スッと立ち上がって出ていった。旅館に戻ったのだ。どうやら、後片付けは桜庭さんが一人でするらしい。
「そう言えば、桜庭さん。この櫻華山の話、続きを聞かせてもらえますか?」
 女将が帰ってから暫くすると、亜希が箸を止めて桜庭さんへと言った。そうだった…酒と夕食に気を取られ、すっかり忘れるところだった…
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