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ベーカー街
第五章
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「それでお願いします」
「わかりました、そうなのですね」
「では今からですね」
「お礼を払わせて頂きます」
 母はホームズに微笑んで答えた、そして一旦家に帰ってそのうえでお金を取って来て戻って来てだった。その金を支払ってだった。
 ホームズは持っていた憮然としたままの猫をヘンリーに手渡して笑顔で言った。
「また何かあったらね」
「はい、ベーカー街のホームズさんの事務所にですね」
「手紙を送ってくれ給え」
「そうさせてもらいます」
「今度はワトソン君も来るからね」
「あの人ともですね」
「会いたいと思えば会えるから」
 このことも言ってだった、そのうえで。
 ホームズはヘンリーと彼の母親に別れを告げた後颯爽と帰った。そうして。
 後に残った母は息子にだ、驚いた顔のまま言った。
「まさかね」
「ホームズさんが本当にいるって?」
「思わなかったわ」
 こう言うのだった。
「想像もしていなかったわ」
「そうなんだ」
「けれどそのホームズさんが」
 実在する筈がないと思っていた彼がというのだ。
「トムを連れて来てくれたわね」
「そうだよね」
「本当によかったわ」
「もうトム外に出さない様にしないとね」
 ヘンリーは笑顔でトムを持って言った。
「家猫なのに出たがりだけれど」
「そうね、そのことはね」
「うん、出さない様にして」
「さもないとまた大騒ぎになるから」
「そうしないとね」
「とにかく。トムは戻って来てくれたから」
 他ならぬホームズが見付けてきてくれてだ。
「今日はお祝いよ」
「家族の皆で」
「ええ、お母さん奮発してお料理作るから」
「期待していいんだね」
「そうしていてね」
 こうしたことを話してだった、一家は全員でトムが戻って来てくれたことをホームズに感謝しつつお祝いのパーティーを開いた。その白い猫を見つつ。
 この話は有名になってだ、手紙を届けた郵便局でも話題になった。
 チャールズもだ、そのお話を聞いて驚いて言った。
「まさかな」
「ホームズさんが実在してな」
「仕事をしてくれるなんてな」
「想像もしてなかったな」
「それはな」 
 同僚達も言う。
「ホームズさん本当にいたんだな」
「それで探偵として働いてるんだな」
「コナン=ドイルの世界から出て」
「俺達の世界にいるんだな」
「そのことがな」
 まさにというのだ。
「事実は小説よりも奇なり」
「小説の人物は実在している」
「そして俺達を助けてくれる」
「凄いことだな」
「世の中何があるかわからない」
「全くだな」
 こう話すのだった、だがヘンリーは愛猫をホームズに見付けてもらって満足していた。このことは確かなことである。


ベーカー街   完


        
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