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エースナンバー
第一章
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 中日ドラゴンズにおいて二十という背番号は何か。
 名古屋の居酒屋昇龍愛においてだ、小松寺の住職立浪玄馬は檀家の一人であるサラリーマンの川上望に言った。二人共今はラフな格好である。住職は白髪であり川上はオールバックで二人共面長であるが川上の方が背は高い。
「二十番は特別なんですよ」
「住職さんいつもそう言われますね」
「他のチームではエースの背番号は十八番で」
「はい、中日ではですね」
「我等の愛する中日ではです」
 焼酎という名前の般若湯を飲みながらの話だ、つまみは焼き鳥である。
「二十番です」
「あれどうしてなんですか?」
「最初に付けた人が偉大だったのですよ」
 八十になろうとしている老住職は川上に話した。
「まことに」
「杉下さんですね」
「そうです、杉下茂さんです」
 昔を思い出す目での言葉だった。
「あの人が付けていました」
「確かフォークが凄かったんですね」
「そうです、実はあまりフォークは投げなかったんですよ」
「フォークで有名でも」
「そうでした」
 実際の杉下はというのだ。
「大抵ストレートとドロップでした」
「フォークは切り札だったんですね」
「そうでした、その杉下さんが最初で」
「それからですか」
「愛するドラゴンズのエース達が付けていました」
「大きな背番号なんですね」
「まことに」
 こう川上に話すのだった、しみじみとした口調で。
「あの背番号こそがです」
「中日のエースナンバーですね」
「巨人なんぞでは十八番ですね」
「ああ、あそこは」
 川上は焼酎を飲みながら嫌そうな顔で立浪に返した、何を隠そう二人共根っからの中日ファンで巨人が嫌いだ。それが言葉に出ているのだ。
「そうですね」
「黴の生えた伝統とやらが好きで」
「というか他にはですよね」
「ないチームですよね」
「そうですよね、あそこは」
「球界の盟主ぶっていますが」
 戦後日本の深刻かつ醜悪な病理の象徴である、マスコミの力を利用しただけのチームが球界の盟主となる。実に滑稽な三文芝居である。
「名古屋では違いますよ」
「ここは中日ですからね」
「巨人なんぞ応援したら」
 それこそだ。
「相手にされません」
「というかあんなチームの何処がいいんでしょうね」
「マスコミに騙されてるんですよ」
 そうだとだ、住職は川上に言い切った。
「所詮は」
「巨人は格好いい、巨人は正しいと騙されて」
「実際は違いますよ」
「あんな悪いチームないですよね」
「巨人の歴史は悪事とお家騒動の歴史ですよ」
「僕と同じ名字なのが嫌ですけれど」
 それでもとだ、川上は前置きしてから言った。
「川上哲治なんか色々やってますね」
「あの人は戦争
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