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ある筈がないが
第四章
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「それでな」
「その時にですか」
「全てがわかるのですか」
「我々も」
「そうだ、では行こう」
 こう言ってだ、ベルゼブブは自ら先導して彼等を教皇の間に案内した。神の代理人がいる筈の最も神聖な、バチカンのその中でもだ。
 一行は姿を消したまま教皇の間に入った、壮麗でありかつ厳粛な雰囲気に満ちた、神聖さが感じられる部屋で。
 何とだ、緋色の服を着た枢機卿達がだ。
 山海の珍味を集めた馳走の山を美酒と共に貪っていた、金や銀の皿や杯に満たされたそうしたものを。ふんだんに食していた。
 そこにいるのは枢機卿達だけではなかった、みらびやかな服を着た貴族達もいてその宴の中にいた。そして。
 彼等はその場で淫靡な服を着ているがその殆どは半裸になっている娼婦達と淫猥な遊びに興じていた。そして。
 その娼婦達と交わりながら悪魔達が聴いたその猥褻な歌を歌い踊っている、それも淫らな踊りと交わりの中で。
 教皇の玉座では教皇がいた、だがその彼は。
 教皇の服の上に様々な宝石を飾ってだ、そのうえで。
 自ら手にした馳走や美酒を楽しみだ、座に座ったまま。
 娼婦達を何人もはべらし彼女達の愛撫を受けて悦に入っていた。十字架も主の像も全てが娼婦達の戯れの中で汚されていた。
 その酒と馳走と女の匂いと声が充満した中にいてだ、悪魔達は思わず言った。
「これは一体」
「何なのだ」
「バチカンではないのか」
「この世で最も神聖な場所ではないのか」
「それが何だ」
「この頽廃は」
「淫靡さは」
「これがローマだ」
 姿を消したまま笑ってだ、ベルゼブブは笑って述べた。
「真のローマだ」
「真のですか」
「これがローマなのですか」
「この頽廃の極みにある姿が」
「そうなのですか」
「そうだ、いい姿だな」
 その頽廃の極みにある、教皇達のそれがというのだ。
「実にな」
「この腐敗は」
「我等も驚くばかりです」
「まさかここまで腐敗しているとは」
「思いも寄りませんでした」
「バチカンだというのに」
「神のいる筈のこの世で最も神聖な場所が最も腐敗している」
 逆説的なパラドックスをだ、べルゼウブはあえて言ってみせた。
「この腐敗は私は好きでな」
「この街に入り浸っている」
「そういうことですか」
「人はここまで腐敗する、見事だ」
 また家臣達に言ってみせた。
「何度見ても素晴らしい」
「我等以上の腐敗」
「その腐敗を見られて」
「いいというのですね」
「そういうことだ、これでわかったな」
 家臣達にその満足している笑みを向けてこうも言った。
「だから私はこの街が好きなのだ」
「この上なく神聖な場所だというのにこの上なく腐敗している」
「だからこそ」
「教皇であろうともな、ではな」
 ここまで話して
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