4部分:第四章
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第四章
「遠山の御主人もちょっと酷いよな」
「芳香ちゃんがいるのに」
「な、どうなってるんだよ」
状況は信和にとって不利になるばかりだった。
「何で皆。この女の言うことを信じるんだ」
「責任取ってもらうわよ」
近所の人達を味方につけたと思ったのかキッとした顔になって彼に顔を向けてきた。
「いいわね」
「そうだよな。浮気なんてしたんだし」
「ここは」
やはり近所の人達は女の味方だ。彼は四面楚歌になろうとしていた。女はさらに言ってきた。
「責任を」
さらに言う。
「責任を。さあ」
「わかったわ」
ここで信和の後ろから声がした。
「責任取ってもらうわ」
「えっ!?」
信和はその言葉に遂に終わったと思った。勿論自分自身がである。そう思い絶望した顔でその声がした後ろを見た。するとそこにいたのは。
「ただし」
そこにいたのは彼女だった。
「信和さんじゃなくてあんたがね」
「芳香!?」
「あれ、芳香ちゃん」
「起きてきたんだ」
信和と近所の人達がほぼ同時に声をあげた。彼のすぐ後ろにパジャマの上から赤いカーディガンを羽織った芳香が立っていたのだ。
「ああ、今御主人がさ」
「この人と浮気したって」
「騒ぎになってるんだけれど」
「知ってます」
近所の人達にきっぱりと答えるのだった。
「あまりにも大声だから聞こえていました」
「ああ、そうだったんだ」
「やっぱりね」
近所の人達も芳香のその言葉に納得して頷いた。
「じゃあさ、芳香ちゃんこの話だけれど」
「本当なのかな、やっぱり」
「嘘に決まっています」
やはりはっきりと答える芳香だった。
「うちの人は浮気はしません」
彼女は言い切る。
「そんなことは絶対にしません」
「絶対になんだ」
「真面目なんですよ、うちの人」
信和の方をちらりと見たうえでの言葉だった。
「しかも清潔ですし。そんな人が浮気なんかします」
「そういえばそうだよな」
「町の集まりでもレクレーションでもいつも真面目にやってくれるし」
実際信和はそれで近所でも評判になっていた。これは生来の真面目さの他に小心さも入っていた。だがそれでも真面目であるのは事実であった。それは間違いなかった。
「考えてみればそれはないか」
「そうだよな」
「しかもです」
芳香は夫の潔白をはっきりさせたうえでさらに言葉を続けるのだった。
「相手はこの人ですね」
今度は女をジロリ、と見据えたのだった。
「この人ですよね」
「ずっと騒いでいるけれどね」
「この真夜中に」
「こんな人誰が相手にしますか」
これまたはっきりと言い切った。
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