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狩人が斬り裂く
古狗
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 男は夢の中で目覚めた。夢の中なのに目覚めたというのはおかしいが、とにかく目覚めた。
 そこには数えきれないほどの花に囲まれたいくつもの墓石が並び、中央には小屋と、巨大な木があった。

「おかえりなさいませ、狩人様」

 男の帰宅を迎え彼を狩人と呼んだのは、彼よりも背の高い女性であった。彼女は人形、彼の身の回りの世話をする、侍女のような存在だ。
 狩人は人形に軽く会釈して小屋の中に足を運ぶ。中には獣狩りに関する様々な知識を書き記した本棚、武器を整備する机、身体に焼き印をいれるための儀式台、そして女神の像があった。
 そこには一人の老人がいた。足が悪いのか、車椅子に乗った男性、血の薄れたような赤色の服と、黒い帽子が特徴的な人だ。
 老人の名はゲールマン、この場所に訪れる狩人たちの助言者だ。

 ゲールマンは狩人に気付くと、読んでいた本をテーブルの上に置いて彼に向き直った。

「あの地はどうだったかね?」

 ゲールマンの問いに対し、狩人は無言だった。だが右手に持ったノコギリを持ち上げて手首の動きで軽く振る。ゲールマンはそれを良い認識として捉えた。

「あの地はヤーナムとは異なる病が、何百年と根付いている。術師たちはそれ律する手段があり、家畜のように飼っている」

 ゲールマンは車椅子を動かし、ある本棚から一冊の本を取る。その本は紙束の両側面を色違いの紙ではさみ、ヒモで縫っただけという、ここにあるどの本とも似かよらない、かなり異色を放つ見た目をしていた。

「だが、飼うことができても、慣らすことはできていない、いや、していないようにも見える」

 ゲールマンは本を狩人に渡す。彼はそれのページをめくってみた。その本の内容は、彼の地の獣とその特性、そして現地の狩人についてが記されていた。

「君が手を出しても、かまわないだろう。狩人は禁則に縛られない存在故」

 狩人は倉庫を開き、新たに武器を取りだす。いくつかの道具も。そして作業台で武器を修理して、小屋を後にした。

―――狩りたまえ。そこに獣がいるのなら、一匹のこらず



 今宵の狩人は大旧杜より離れた山の中におもむいていた。今夜の獲物は大旧杜から逃げ出した、強い獣だ。
 大旧杜とはそもそも、獣による被害を出さないために狭い箇所に閉じ込めておく術結界のことを言うのだが、それは完璧ではなくところどころに綻びが生じる。知能が残っている、そして専門の知識が多少ある獣はその綻びから外に出て逃げてしまうのだ。
 知能や意思が残っている獣ということは、強力で、良質な獲物であるだろう。ましてや結界から逃げ出すほどのものならば、相当な力を有していることは間違いないはずだ。
 狩人は雲に隠れて顔を出さない月に代わり、松明を片手に山道の暗闇を切り裂きながら進ん
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