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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十六話 内地にて
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「――それにしてもこの屋敷は誰の持ち物だ?」
「ふむ、そう言えば私も知らんな」
 弓月伯も首をひねる。場所柄から行って妾宅か子飼いの商人が使う密談所だとは、見当をつけていたが、そのいずれであるかはしらされていなかった。
「馬堂君、君のとこか?」
「いえいえ、まさか」
 豊守が惚けた笑みで答える。
「おい・・・まさか浮いた話の一つも無いと思ったら。貴様」
 窪岡少将がアスローンまで攻めてきた、と報告を受けた様な顔で大辺少佐を見る。
「違います」
 大辺が無感情な声で一刀両断すると相も変わらず面白みがない、と窪岡が鼻で笑う。
その様子を笑って見ていた保胤が笑って言う。
「家の爺様が片付く前に妾にやった家だそうだ。
その甥子達が貸してくれたのさ。爺様に随分と恩義を感じてくれている」

「やはり妾宅か、それならば後で白粉を持って来させてくれ。
この辺りに妾を囲っている事にしているんだ。白粉の臭いと酒も一杯程度呑んでおかないと」
 先程の言葉通り恐妻家で有名な少将に余りにも似合わない偽装を今度は将軍二人がからかいだす。
 そんな光景を大辺が眺めているとこの家の主が最後の客人の到来を告げた。
即座に会話を止め、全員が二刻半の角度の礼をする。
 この礼をする相手で自分の足で歩く人間――戦死者では無い者はこう呼ばれる――皇族、と。
 皇族にして近衛少将である実仁親王は産まれ持ったものとして当然のごとく、公子・伯爵といった者達の礼を受け止め、上座に腰を下ろした。
実仁は、准将から少将へと昇進し、近衛衆兵隊三個旅団の長――近衛衆兵隊司令官ととなっていた。だが、戦時における禁士隊・衆兵隊司令部の役割は留守部隊や新編部隊の教育・予算運用・施設管理といった軍政としてのそれであり、司令部というよりは近衛の軍政を司る(つまり兵部省の指導下にある)近衛総監部の内部部局というべき存在であった。前線における運用の権限は近衛総軍司令部に集中する。
この|栄転≪・・≫は、皇族は戦場に居るだけでも武勲物であるのに、実仁親王殿下が直々に避難民の救済に尽力した事が喧伝され、皇室への衆民達の支持を高めている為であった。それ故に前線へと縁がなく、衆兵隊司令官と威勢の良い名前の軍政部署へと体良く送られたのであった。

「それで駒城中将、本日の密談、その目的は私の想像通りと思ってよろしいのですか?」
 実仁親王の口調は少将が中将に対するそれであった。この密談はそうした物である――そう考えているのだろう。実仁少将はこの手の武張ったやり方を好み、また礼節を重んじていた。この礼節の裏にある皇族たる立場への深い理解がなければ周囲から危険視されていただろう。
「殿下。どうか常の言葉でお願いします。自分の今の身なりは、この通りなので。」
 保胤とそれに実仁は商人風
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