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食べ物
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第一章

                      食べ物
 その日彼は極度の空腹を覚えていた。
「腹が減ったな」
 昼食はとった。だが仕事が忙しかったせいかどうも普段より空腹を覚える。いつもはこんなことがないのに、である。
 彼は残業するつもりであったが切り上げ自分のアパートに帰った。外食は金がかかるのでいつもスーパーで買い物をしてそれで自炊している。
 いつものスーパーに入った。駅前にあるごくありふれたスーパーである。いつもそこで買っている。
「何がいいかな」
 店の中を見回る。すると缶詰の山が目に入った。
「お」
 見れば安い。一個三十円とはかなりのものだ。
「何の缶詰かな」
 果物か何かのようである。どうやら日本産のものではないらしい。文字はアルファベットでも漢字でもなく読むことはできない。だが貼り付けられている絵からそれが果物らしきものであると推測できるのだ。
 ものは試しと思い買ってみた。それはデザートにし他の食材をカゴに入れた後金を払いアパートに向かった。
 服を着替え早速食事にする。空腹だったのですぐに調理して食べた。
「やっと落ち着いたな」
 彼は満腹感を覚え一息ついた。そしてデザートにと考えていた缶詰を開けた。
「まさか手袋が入っているなんてことはないよな」
 以前開けてみたらその中には手袋が入っていたということがあった。運がないと言えばそれまでだがそのことが何時までも記憶に残っている。
「いくら俺でも手袋なんて食えないぜ」
 缶切りで開けていく。キコキコと音がする。
 中には幸いにして手袋は入っていなかった。桃に似た美味そうな果物が半分に切られて入っていた。
「何だ、桃そっくりじゃないか」
 彼はそれを見て少し落胆した。あまり桃は好きではないのだ。
 だが折角買ったものを捨てるのは気が引ける。フォークで取り出した。
「味はどうかな」
 口に含む。歯触りは桃とは少し違う。むしろ洋梨に近いか。案外固くシャキシャキしている。
 味はいい。ライチに似ている。やけに甘かった。
「美味いな」
 彼はライチは好きだった。だからこの味がえらく気に入った。
 美味しかったので何個か開けた。そして次々に食べた。何個目かを食べた時だった。
「ん!?」
 喉に何か変な感触があった。何かが喉から胃を伝わっていくのだ。
「よく噛んだ筈だけれどな」
 それはすぐに胃に入っていった。とてもその果物の感触ではなかった。何か這う様な感じであった。
 彼は妙に思ったがすぐに忘れた。その後はテレビで野球を観戦し十二時頃に寝た。翌日も仕事なのでそれに備えてあまり遅くまで起きるつもりはなかったのだ。
 次の日彼は普通に出勤した。そしてそれから数日経った。
 腹が痛くなってきた。中から何かチクチクするの
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