3部分:第三章
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第三章
その時だった。その蝋燭の匂いが妙なことに気がついた。
「何だ、この蝋燭は」
それは僕が知っている蝋燭の匂いではなかった。何か異様な雰囲気を感じた。
「・・・・・・止めておくか」
僕は灯りを点けないことにした。月を見ながら時間を潰すことにした。
やがて扉をノックする音がした。開けてみると執事がいた。
「ご夕食です」
僕は彼に案内され食堂へ向かった。そこには一つの大きなテーブルが置かれていた。
「どうぞそちらへ」
主人は僕を自分の向かい側に座らせた。そして自分も席に着いた。
暫くして使用人の一人が入って来た。若い小柄なメイドである。
茶色の髪に緑の瞳の可愛らしい娘である。だがその肌はやはり異様に白かった。
(・・・・・・ここにある蝋燭のせいなのか)
僕はふとそう思った。だがすぐに食事のことに考えを持って行った。
「運がいいですな。今日はとびきりの御馳走ですぞ」
主は僕に微笑んで言った。
「御馳走ですか」
僕は彼に問うた。
「はい。楽しみにして下さい」
「それでは」
僕は素直にそれを楽しみにした。そしてメニューが来るのを待った。
まずはスープが運ばれてきた。鳥の肉と玉葱が入っている。
「これは雉ですね」
その肉を食べた僕は主人に対して言った。
「はい。今日獲れたものです」
彼は微笑んで言った。
ワインは赤だった。銘はよくわからないが少し辛めだ。
(美味いな)
僕は素直にそう思った。だがやはり違和感があった。
あの時のワインの味は今でも覚えている。辛口ながら口ざわりがよく甘いワインが好きな僕にも心地良く飲めた。
しかし匂いが気になった。芳しい香りであった。だがその中に何かが入っていた。
それは妙に生臭かった。そして鉄に似た匂いであった。
(血・・・・・・!?)
僕はその匂いに気付いて咄嗟にそう思った。
まずは自分のくちびるを舐めてみた。傷はなかった。
口の中にも傷はない。では何故なのか。
(まさか・・・・・・)
ワインを見た。紅くルビーの様な色をそのガラスの美しいグラスの中にたたえている。それは血の色にも見える。
しかしそれは一瞬だった。ワインは再びその芳しい香りに戻った。
前菜とサラダの次にメインディッシュが来た。メインディッシュも雉の料理であった。雉を煮て香辛料で味付けしたものだ。
「如何ですか」
主は僕に対して問い掛けた。
「素晴らしいですね」
僕は率直に答えた。残念だが味はよくわからない。そんなに繊細な舌は持っていない。だが一言でそれは言えた。
「それはよかった」
彼はそれを聞いて満足そうに頷いた。
「何しろ狩りにはいつも気を使っていますからな」
「狩りにですか」
「はい、狩りにです」
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