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古城の狼
19部分:第十九章
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第十九章

「それは・・・・・・」
 僕は止めようとした。だが彼はそれに構わず短剣を掴んだ。
 魔性の息吹を受けた者にとって銀は猛毒である。それを持つ彼の手は瞬く間に溶けていく。
「いいのです」
 彼はその手が溶け消えてなくなるより前に動かした。そして自らの首を掻き切った。
「な・・・・・・」
 それを見て僕も神父も唖然とした。まさか自決するとは。
「私は彼女の美しい姿を心に留めたまま去ります」
 彼は短剣を僕に返して言った。
「そして彼女を待つことにします」
 そう言うと倒れた。
「お願いしますよ。彼女を。そしてこの地の禍を取り除いて下さい」
 彼の身体が溶けていく。
「私はそれが出来ませんでした。本来なら真っ先にそれをしなければならない筈なのに」
 貴族の務めはその土地と領民を護ること。それこそが高貴なる者の務めとされてきた。まあ中にはそれをせず特権に胡坐をかき愚行の限りを尽くした者もいるが。
「わかりました」
 神父はそれに答えた。
「安心して旅立って下さい」
 優しい声であった。まるで死に行く者の不安を取り除くように。
「有り難うございます」
 主人はその言葉に対し安堵したかのような声で答えた。
「その言葉を聞いて安心しました」
 そう言うと完全に消えた。
「さようなら」
 それが最後の言葉だった。彼はその姿を完全に消した。
「行かれましたね」
 僕はそれを見て神父に対して言った。
「はい。あの方は最後まで人でした」
 彼は瞑目するような顔で言った。
「その心は最後まで人のものでした。ですから」
 彼は言葉を続けた。
「その願いを叶えなければなりません」
「はい」
 僕はその言葉に頷いた。
「行きましょう。おそらくもうすぐこの城に戻って来る筈です」
 見れば夜になっている。本来ならば明け方にならないと帰って来ないが今は状況が違う。自身のクグツが消えたことは彼女も察知しているだろう。おそらく今頃恐るべき速さでこの城に戻ってきている筈だ。
「わかりました」
 僕は頷いた。そして踵を返した。
「ご主人の心を無駄にしない為にも」
 僕達は部屋を出た。そして城の中で息を潜め彼女が帰って来るのを待った。
正門が破壊される音がした。凄まじい衝撃が城内に伝わる。
 そして恐ろしい冷気が城内を支配した。間違い無い、戻って来た。
 僕達は食堂にいた。そしてそこで彼女を待ち構えていた。
「準備はいいですか?」
 神父は僕に囁きかけてきた。
「はい」
 僕は答えた。気配が一歩一歩こちらに近付いてきているのがわかる。
「来ますよ」
 神父が言った。
「はい・・・・・・」
 僕は頷いた。今扉が開こうとしている。
 奥方が入って来た。金色の髪は月の光を照らし美しく輝いている
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